2006.05.05
サクラを見に行った近くの公園に、ビオトープが造られていました。
そこではハスの花(蓮華ですね)とウシガエルのオタマジャクシと、アメリカザリガニがいました。ほかにも大きなコイとかクロメダカとかもいたのですけれど。巨大なオタマジャクシのインパクトが強かった~(笑)。

レンゲというとレンゲソウを思い浮かべてしまう私ですけれど(^^; あちらのほうが、この蓮華に似ているから、レンゲソウという名前なのですよね。ハスの花なんて滅多に見ないので、ついつい印象が逆転してしまいます。

見えないかも(^^; 黒い影みたいなのがそれなのですけれど。
頭から尻尾までで、携帯電話くらいあるのです。
しかも何匹もいて、ゆーっくり動いていました。

小さめのアメリカザリガニが、やはり何匹もいました。
ウシガエルに食べられてしまうのでしょうか(^^;
ビオトープの生き物の説明が掲示されていたのですけれど、そのへんの説明はありませんでした。

また食べてしまいました(^^;
あんみつ。
一緒に食べた長崎ちゃんぽん風うどんもおいしくてとても満足でした。
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2004.12.12
(ずっと前に書いたものです(^^; たぶん、ブログに置くのを忘れておりました)
「糸切り歯が伸びている人はね、月光をあんまり浴びてはいけないんだよ」
十五の年に彼女がそんなことを言っていたのを覚えている。文化祭の準備の泊まり込みだったか、それとも部活で合宿所を使ったときのことだったか。とにかくグループで学校に泊まった夜半過ぎのことだった。ほかのことは首をひねりたくなるほど薄ぼんやりとしか覚えていないのだけれど、彼女のその言葉だけが記憶の中で浮き彫りになっている。
職員室のある東側校舎と本校舎とをつなぐ渡り廊下の飛び石を枕に、長い髪をまるで風を受けた吹き流しのように床に横たえて、彼女は目をつぶっていた。僕の足音が聞こえたのか、それとも彼女を見つけたときに驚いて息を呑んだ音が彼女の耳まで届いてしまったのか、彼女はまぶたを上げもしないでその言葉を言ったのだ。
その彼女の口元には赤い歯茎から伸びる白亜の糸切り歯がすらりと長い姿を見せていたし、またどう見ても彼女は月光浴をしているようにしか見えなかったのだけれど。月光をあんまり浴びてはいけないのは、彼女のことじゃないのだろうか。
僕の気持ちを読みとったかのように、満月の光の中の彼女が答えた。
「気持ちよすぎるからね。生まれる前に還ってしまいそうになるの」
三年生になってからこの九月までに彼女と僕とはまともに口をきいたことさえ数回だけだったのに、なぜか親しい友人に何でもないように打ち明け話をするみたいな口調だった。
「それは……とても……困るよね」
誰が、とは言えずに、そんなことを言って僕は彼女の隣に腰を下ろした。校庭の樹木も、コンクリートの校舎も消えてなくなって、世界にはただ彼女と僕と、そして月光。
「困るの?」
問い返す彼女に、僕は心の中で声にする。
『だって今生まれたばかりのこの恋が、すぐに失恋になってしまったら可哀想だから』
「そう」
彼女が返事をした。ただの偶然かもしれない。
偶然だとしても、彼女は僕の言葉が聞こえて、返事をしたのだろう。目を閉じたままの彼女の中で、僕は誰だったろう。そして何と言ったのだろう。
考えるうちに、僕の身体にも月光は染み込んできた。
そうして、生まれる前に還る夢を見た。黒い深い海と、水平線にかかる黄色い月が見えた気がした。横たわる彼女の隣に座っている自分をたしかに意識しながら、夢の中を漂った。
夢と現実のはざまの世界で、満月が何もない地平線に小さく遠く沈む頃、永遠にこのまま月をとどめてほしいと願ったけれど、僕の意識はそのまま生まれる前に完全に還ってしまったのか、蝋燭の灯りが何の理由もなく消えることがあるように、ふっとかき消えてしまったらしかった。
やさしい冷たさを帯びてきたとは言え夏の余韻を残している粗暴な太陽に、起こされた。隣には冷たい飛び石が眠っていた。僕は自分のグループの寝所に戻った。
朝の食事は体育館で食べた。記憶はあまりたしかではないが、泊まり込んだ何組かのクラスだか、クラブだかが合同で支度をしたものらしい。
三角巾で黒髪をほんの一部だけ隠し、パジャマじゃなく臙脂(えんじ)色のジャージ姿になった彼女が朝食のトレーを僕に持ってきた。よそのグループだったはずなのだけれど。
「生まれた気持ちに、おめでとう」
皿の上には、ほかの生徒よりはいくぶん大ぶりの鰯の尾頭付きが載っていた。気のせいかもしれないけれど、ささやかな何かの徴(しるし)だと僕は思いたかった。
「還らなかったんだね」
と聞くと、
「誰かの気持ちがここにつなぎ止めていてくれると、還らなくてすむの」
臙脂色のジャージの小さなお尻をこちらに向けた彼女が言った言葉は、たぶんそんなことだったのだと思うけれど、もうそんなことも記憶の中では曖昧なのだった。
-了-
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2004.11.05
風の渡る音のほかはこそとも言うもののない、木も草も家も眠る夜のこと。隣で眠る年老いた夫の枕元から、ぴちゃ、ぴちゃと湿り気を帯びた音がする。
私は薄目を開けて様子をうかがってみた。天井に薄汚れた獣が張り付いており、その口から長く黒い舌がのびて、夫の首筋を舐めている。どうやら襟にたまった垢を舐めているらしい。長く生きるとこのような妖怪に出会うこともあるのか。私は妖怪に言ってやった。
「こそこそと他人様の寝室に入って来て悪さをするのはおやめさない。お前が何年生きているか知らないけれど、人間も百歳も生きれば、妖怪のようなものです。お前ごときをどうして恐れるものか。さあ、カネの糸で縛られてお天道様にあぶられる罰を喰らいたくなかったら、もうやってくるんじゃないよ」
獣は慌てて手足をじたばたさせたが、のびた舌を忘れていたようで、長い黒紐のようなそれがぷらん、と暢気そうな様子で揺れていた。気づいて黒い舌を口の中に吸い込んで収めたようだが、よほど驚いたのだろう、舌が途中で絡まって喉に詰まってしまったらしい。頬をふくらませてもごもごと言いつつ指を唇の端からつっこんでいたが、やがて一声うーんと唸ると天井から落ちてきた。布団の端にのびてしまった獣を、主人を起こさないように台所に連れて行き、口の中に油を差してやって舌をほどくと、息をするようになった。二日ほど床下にかくまってやったが、その後知らぬまにいなくなった。
今でも秋が深まる時分になると、誰からとも知れぬ小さな壺が玄関の脇に届けられることがあり、そこには木の実を潰して絞った油がなみなみと入っている。私はその油で我が家の庭に生えているユキノシタを揚げ、主人と二人でいただくのだが、玄関脇に五~六枚を置いておくと、翌朝にはそれもきれいになくなっているのだった。
-了-
(三語一行:お題「さい かい した」)
※同じお題の三つめ。はじめのはなるべく普段書かないものにしてみました。二つめ三つめと、だんだん地が出てきた感じでしょうか。
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2004.11.04
ススムは食事時になると決まってオレにお裾分けをねだってくる。今日はオレの好物の豚汁がターゲットになった。
「ぼくにも、それください」「ああ、あったかい」「ごちそうさまでした」いつもの言葉、いつもの笑顔。オレの顔も知らずのうちにほころぶ。
この秋メーカーから売り出されたばかりのコミュニケーション型オートマトン(自動人形)のススムには、食べる機能なんてないのだけれど。それでも、誰かと一緒に食卓につくっていうのは、うれしいことで、笑顔のもとなんだよな。それで、いいじゃないか。
-了-
(三語一行:お題「さい かい した」)
※同じお題で書いたものふたつめ。ごはん!鍛錬場が「再開した」ということで、お題はそのままですね(^^;
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ミサイルたちが選挙権を主張しはじめた結果、ただでさえ遅れ気味だった大統領選挙は混乱に向かい、その趨勢は世界の注目の極みに達した。大量破壊兵器であるミサイルに投票権が許されれば画期的なことだと褒めそやす識者たちもいて、ひとまず投票だけは許され、選挙結果に反映させるかどうかは保留とされたが、一週間後、「ミサイルに投票権なし」との言葉のもとに却下された。噂によるとわずかの差で大統領の座を勝ち取った現職が、「ミサイルたちは向こうの候補に投票したに決まっている。なぜって、あいつらも自分の命は惜しいに決まっているからさ」と言ったのが影響したとか、しないとか。
-了-
(三語一行:お題「さい かい した」)
※作家でごはん!鍛錬場が再開しました~。その記念に早指しで書いてみました。
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2004.10.31
「勘合貿易の頃に入って来た宗時代の薙刀で、払いだけではなく突きにも使えるよう、槍の穂状の刃を具えている。斬る、突く、払うと多様の能力を持つためこのような形状のものを乱れ刃と私は呼んでいるが、正式ではない。先年、この乱れ刃に人影が映るようになった。いや、人影だと思っていたのは見間違いで、よくよく見ればそれは人ではなく怪物であった。頭は猿、尾はクチナワ(蛇)、手足は虎である。胴は狸かムジナであるように見えた。それがヒィヒィと悲鳴たような声で訴えるのだ。『ぬし、ぬしよ、我はヌエである。かつては都を脅かしたが、人の手にかかって今はこのような有り様。どうか出してはくれぬか』と。嘘ではない、まだここに閉じこめたまま、哀れに訴えの声をあげておる。ご覧なさるか、どうかな、見えるかな。何、見えたと思うたら、消えたとおっしゃるか。そういえばヌエめはこのように申しておった。『人に封じられし身は人に依りてのみ解かれる。人の眼がよい。ぬしのその濁りはじめた眼には入れぬ。澄んだ眼がよい。のう、誰か我を依らせる人を知らなんだか』とな。もしかしたらあなたの眼にすでに乗り移ったのかもしれぬぞ。――冗談じゃ。ヌエは自分の声が聞こえぬ者には宿れぬそうじゃ。きっと姿を見せたと同時に自分の声が聞こえぬ相手と知り、乱れ刃の合わせ鏡のすき間に引きこもったのだろう。あれは気が向かぬと何日でも何ヶ月でも姿を見せぬ。そう、あなたにならば気を許して姿を見せるかと思ったのだ。ダシにしてすまなかったな、木国谷くん。お詫びと言ってはなんだが、どうだね、食事を予約してあるんだが――」
「ってことがあってさあ」ぼくは百日紅にこぼしていた。「じつは、あのときヌエがどうしても助けてくれってしつこいから、うかうかと眼に入ることを許しちゃったんだよね」「木国谷は甘い、甘すぎる!」「なんだよ百日紅。そもそもお前がこうやって自由の身になれたのだって元はと言えば同じような――」「わ、わかったわかった。それを言われると弱い。その星霊を自由にしてやる手伝いをすればよいのだろう、いちいち古い話を持ち出すヤツだ、始末に追えん、まったく、なんたること……」「ぶつぶつ言うなよ。ところで、依り代(よりしろ)だけど、ぼくとしては鳥がいいと思う。だって、こいつの鳴き声はヒィヒィと、怪談に出てくる女の人の泣き声みたいでさあ、うるさくって……なあ、聞いてるんだろ。え、何、ぼくがそれ捕まえてくるの? お前やってくれないの? ひどいなあ、おいちょっと百日紅、手伝ってくれよ。手伝えってば……」
(三語一行:お題「つき みだ んご」)
※百日紅のお話の続きになっております。
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今日も雨戸を叩いている五月雨のように繰り返される陰鬱な出来事に、私の心は濁った渦を巻いていた。玄関先に溜まった泥水のように、もう澄むかと思うと次の雨がやってきて引っかき回し、もとの不透明なもやもやに戻ってしまう。
五歳と三歳の息子がいるが、上の子が幼稚園からもらってきた風邪で週の前半を寝て過ごし、治ったと思ったら今度は下の子、医者通いがまるまる一週間続いた。それがようやく終わったと思ったら、昨夜からは私の方が熱っぽい。主人は仕事の納期だとかで時計が0時を回らないと帰らない。今日は土曜日だが、この週末だって出勤である。
一人で家事と看病とそのほかの雑用をこなすと、必死にやっているつもりでもほころびが出る。皿は割れるし、風呂を沸かし忘れる。おまけに洗濯物は長雨でちっとも乾かない。猫の額ほどの庭はこの時期はいつも泥んこで、子どもたちが駆け回って帰ってくるおかげで古い我が家のあちこちにうす茶色の飛沫がこびりつく。それをひとつひとつ濡れ雑巾で拭く気力もない。我が家は私と一緒にうすぼんやりとくたびれて、汚れていくばかりだった。
気が重いことに、次の終末には義父母が孫に会うために新幹線を乗り継いでやってくる予定になっている。昨日突然電話で知らせが入ったのだ。
田舎の人で、二人とも私たち夫婦のやり方に口をはさむことに遠慮がないのが、私の結婚生活の頭痛の種だった。悪気がないのはわかっているが、だからといってありがたく思えるものでもない。義父は子どもさえ自分の好きにおもちゃを買い与えたり一緒に遊んだりできれば気持ちがそちらに向いていてくれるが、専業主婦を四十年も続けた義母はそうはいかない。口うるさいのは家事全般、特に料理に関しては自分流の作法がきっちりと決まっていて、嫁たる私はそれにいちいち従わなくてはならない。うっかり忘れると嫌みが数年も続く。逆らえばどんなことになるかと想像するだに憂鬱で、私は唯々諾々と従うのみ、嫌みも耐えるのみ。
来週末になれば主人が子どもを少しの間でも見てくれるという希望があったのに、いっそう疲れることが確定してしまった。
私はいっそふてくされて寝込んでしまいたい気持ちになる。けれど、今私が病気になっても親身になって看病してくれる人なんていない。それどころか同情のひとかけらだって与えてはもらえないのだ。雑事が多くて洗い物が二回に一回しかできず、流しを占領する大量の汚れた食器そのものが洗い作業の邪魔になる。私は泣きそうになりながらそれを終え、台所の柱に画鋲で留めたメモ書きを見る。そうだ、町内会の仕事があった。今年は持ち回りで我が家が班長になっており、この梅雨でついに雨漏りがひどくなり改修工事が決まった近所の神社の寄付金集めをしなければならない。
玄関に回り、つっかけに足先をねじり込む。名簿と集金用の袋を台所に置き忘れたことに気づいてしゃがみこみそうになりながら、廊下を戻り、ふたたび泥汚れだらけの玄関へ。いっそ目をつぶってしまいたい。夕飯の支度もこれからで、子どもたちには勝手にお茶漬けでも食べなさいと言ってしまいたい。
傘を片手に玄関を出ると、この時期には珍しく、雨も風もやんでいた。ほんの一時間前にはあんなに雨戸を叩いていたのに。夕暮れが近い西の空高くに、街灯のように頼りなく輝く半月が見えた。ふと足を止めて、月を見る。いくら忙しいといっても、ほんの一分かそこいらだけ、私と月の会話の時間があってもいいはずだ。
そのとき月をさらって飛ぶ一羽のツバメがあった。前後してもう一羽。
もうすぐ闇の帳が下りるというのに、餌を探して飛んでいるのに違いない。きっと夫婦だろう。振り向いて、ツバメの夫婦を目で追ったけれど、もう姿は見えなかった。お腹をすかせた子どもたちのところに急いでいるのに違いないと私は思った。
我が家の子ツバメが遊びに行った友達の家からそろそろ帰ってくる頃だ。
「おかあさーん、今日の晩ご飯は、なあに」
家の中から下の息子の声がした。私ははっと我に返る。いったい何を考えていたんだろう。私ががんばらなくちゃいけないのは、今じゃないか。あっという間に、若ツバメは巣立ってしまう。それからいくら面倒を見たいと言ったって、時間は戻らないのだ。今が私の苦しい時。だからこそ、私のいちばん幸せな時。
「手作りハンバーグよう」
たった今それを思いついたことをおくびにも出さずに私は応えた。やったあ、という元気な声が返ってくる。
玄関前の水たまりをおおげさに両腕を広げて飛び越して、私は集金に向かった。
-了-
(三語一行:お題「つき みだ んご」)
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2004.10.24
仮死になった者たちから最後のリクエストがその曲だった。ワーグナー作曲、ジークフリートの葬送行進曲。これまでの曲がすべて明るい曲や故郷の素朴な歌だったので、私はいぶかしんだ。「どうして、最後にこの曲なのだ?」私に答えて、弟――私の隣で人類の全文献の分類整理という、予定では六十年以上かかる仕事を一心不乱に続けていたロボット・クロン――が言った。「もうこの惑星が二度と甦らないかもしれないことを、彼らは知っていたのさ。明るい未来を夢見る曲、懐かしい過去を思い出させる曲、そしてこのまま年月が過ぎ、自分たちの最後の一人までが眠ったまま息絶えた時のために、その終末を悼んでくれる曲。彼らのメンタリティを分析するに、そんなところだろうね。おかしいかな、兄さん」なるほど、文学、芸術分野の分類整理をこれまでずっとしてきた弟らしい。「おかしくないさ。お前の言うとおり、俺たちだけが彼らをいずれかの未来へ見送ってやれるんだからな」弟はこちらに向けていた首をジイっと鳴らして元の位置に戻し、無言で作業に没入した。次に私たちが『会話』するのは何年後、何十年後だろうか――「では、弾こう。ジークフリートの葬送行進曲」モニタに常時映る地球の赤い空を意味もなく見つめながら、私はつぶやいた。何世紀もかかって粉塵がすべて地表に落ち、空が青さを取り戻した時――彼らが目覚める約束の時に、私はふたたび彼らのために曲を弾いてやれるだろうか。並べられたカプセルのひとつひとつの前に置かれた物体は、有機物を人の手で削り組み立てることで作られた最後の楽器たちである。私の百本のマニピュレータが、人間たちの思いをそっと拾い上げ、最後の曲ををかき鳴らし始める――
-了-
(三語一行:お題「しに くえ んだ」)
※久しぶりに一改行です。テーマは以前に書いたものと似通っている気が……好きなんでしょうね(^^;
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2004.10.16
墓石を慎重に引く。自分のご先祖の住処であるとわかっていても、いざそこに入っていこうと思うとためらいを感じてしまう。
口を開いた暗渠に向かって、どうかお許しを、と深く頭を垂れて詫びたが、果たしてご先祖は私の罪を見逃してくださるだろうか。
――おそらく地獄でひどく罵られるに違いない。
私の罪とは、研究で作り出したウィルスが全人類に感染し、そのすべてを生ける屍にしてしまったことである。
抗ウィルス剤の試作品を血管注入したために症状の進行を遅らせているが、私が他の者たちのようになるのには、あと数時間とかかるまい。私を待っているのは、生きることも死ぬこともなく土を喰らって地上をはいずり回るだけの存在になる未来だ。腐敗はしても無機物には返らず、非常に強い毒素を撒き散らすために他の生物に食べられるという救いもない。それは科学という名の呪いにほかならなかった。私はただ、遠い祖先から受け継いだ使命を果たそうとしただけだったのに――いや、思えば先祖の拝領した使命そのものがすでに呪いであったと言えるかもしれない。
墓は想像していたよりもずっと広く、持参した灯りに照らし出された石室はゆうに家一軒が収まるだけの広さがある。私は迷わず最奥部に歩き出す。そこには私の胸くらいまである大理石の石塔がある。一瞬の間を置いて、石塔に向かって思い切り自分の頭蓋を打ち付ける。はるか昔この国に渡ってきた私の祖先の墓が、「徐福」と彫られたその名が、真っ赤に濡れていく。ウィルスに完全に犯されていなければ、このまま私は黄泉路へと旅立ち、救われるはずだ。急速に意識が薄れていく。よかった、私はこのまま――。私の意識は完全に途絶えた。
一時間後、墓石はぴたりと閉じられていた。墓は静寂を保っていた。やがてその内側からかすかな音があたりに響き始める。土を掻き、墓石の封印を破ろうとする何者かの立てる音が、確実に大きくなり、そして今まさに墓石が再び動き始めていた――。
(お題「はか(ばか) しん ひく(ぴく・ぴっく)」)
※久々に早指し(制限時間30分)で書きました。いろいろ直すべき点はありそうですけれど……
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2004.08.15
「椎の実を炒った粉を、少々入れるのですよ~。あの~、ちょっと多すぎですけど」「もう、マンドラゴラが細かいことを言うからつい手元が狂ったんですわ」「ワタシのせいにされても困りますけど。もう教えませんけど」「いや、いやよ、いやいやん。文句言わないから教えてほしいですの、ラゴラちゃん」校内一の美女で通っている生徒会副会長の信濃がしなしなと体を寄せる相手の姿は、生徒会室にはない。それもそのはず、信濃の正面には乳鉢・フラスコ・ビーカー・アルコールランプと、瓶詰めになった怪しげな素材がいくつか、鉱物の粉末・薬品・漢方の生薬にも似たさまざまな動植物などがずらりと並び、そこにひとつの鉢植えがあるだけだったのだ。信濃がしなだれかかっている相手は、青々と葉を茂らせ、いかにも根菜類といった白い面持ちを少しのぞかせた鉢植えの植物だった。鉢には自称・マンドラゴラとマジックインキで書かれている。「あの、ワタシに抱きついても効果ゼロですけど、やめてほしいんですけど~」「やめてほしかったら、教えてくださるわね? ね? ね?」「わかりましたんで、離れてくださーい」――数分後。「アルカリって、演算実習準備室跡からくすねてきた水酸化ナトリウム水溶液でもいのかしら?」「きっとたぶんノープロブレム~」「それに合鴨の脚のヒレを加えて煮込むんでしたわね……合鴨って古代魔術の生まれた頃からいたのかしら?」「気にしない、気にしない~。ラゴラの秘術で、惚れ薬の完成確率は百パーセント~」「あんたその調子で魔術同好会の連中にもおかしなレシピを教えたんじゃないでしょうね。あのときは全員が魔術の失敗で人形になってしまったじゃないの」「さあ、何のことか知りませんけど」「とぼけるなっ。ああ、愛する古藤さんのためだとは言え、ついに魔術に手を染めることになろうとは。信濃みどり、何か大事なものを魔に売り渡した気がいたしますわ」――数日後。いっこうに態度に変化のない生徒会長の古藤を見て、信濃は怒っていた。「マンドラゴラ~! わたくし、古藤さん用に買い置きしてあった八十八茶のPETボトルにちゃんと惚れ薬を入れましたわ。それなのに未だ効果無しとはいったいどういうことですの!」「あ、あの、あの……」「いつものへらず口が出てこないようですわね。ほほほ、このまま二つに割って来年の干支でも彫って芋判としての人生を歩ませて差し上げようかしら」「あの~、芋判って発想が古いですけど」「なんですってえ」「ワタシ、わかりましたけど。惚れ薬が効いていないのではありませんよ~」「なんですって?」「真相は、こうです。PETボトルの八十八茶を古藤さんはたしかに飲んだのですよ~。では、なぜ古藤さんの行動に変化が見られなかったのか?」「あんた推理小説の探偵みたいなしゃべり方になってるわよ」「それは~」「それは……」「ズバリ~」「ズバリ?」「古藤さんは~」「あーもう、いかにも根菜類といったのろのろしゃべりはたくさんですわ! 早くおっしゃいなさい!」「古藤さんは、すでに信濃みどりさん、あなたにあなたにもう夢中~! これが真相です~」「はっ!」信濃の額のあたりにベタフラッシュが生まれた。「そ、そんなことあるわけないですわ。おほほ、そんな、薬に頼らなくてもわたくしに恋していたなんて、おかしいですわ。嫌ですわ、ラゴラちゃん」バッチィィン。鉢植えの土から二センチほどのぞいていたマンドラゴラの根の白い部分に信濃のデコピンが炸裂した。「い、痛いですけど~。根菜類虐待はんたーい」信濃はマンドラゴラの抗議に耳も貸さずに生徒会室を靴音高く出ていった。残ったマンドラゴラは一人ごちた。「まあ、いいですけど。なんとかごまかせてほっとしましたけど」――それから十数分後。寝付いたマンドラゴラのいびきだけが響く日の落ちた生徒会室をこっそり出ていく女生徒の影があった。彼女の名はサレミィ。東南アジアからの留学生でありながら生徒会書記を務めている、陽気で人好きのする彼女だったが、今日は足音一つ立てずに異様なほどの前傾姿勢で生徒会室から出ていこうとしている。まるで盗人のように……。「あ、あぶなかったー。とっさに書棚の影に隠れて正解だったヨー。私が前に井垣くんに何気なくあげちゃった八十八茶のこと、ばれるかと思った。でも、いったい何をマンドラゴラと話していたのかなあ、信濃副会長」サレミィが出ていった暗闇の生徒会室に、マンドラゴラのいびきだけがひっそりと響いていた。「ZZZZ……あの、全部聞きましたけど……ZZ……」
-了-
(三語一行即興文:お題「あい、ある、しい」)
※人間関係が複雑になってきました~
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2004.08.11
「なあなあ、遊園地のタダ券の有効期限が今月末なんだけど、祥太いっしょに行かない?」こんな風に素直に言ってくる聡子に、俺はここのところ警戒心を持っている。どうも変なのだ。いつも強引な聡子らしくない控えめな言い方。どんな裏があるんだろう。絶対に何かをたくらんでいると思うのだけど、それがわからない。「ダメ?」俺が額に汗を浮かべてたじろいでいると、聡子が小さな声で言ってきた。もちろんダメなわけはない。そんなわけで俺たちは遊園地に来て、ひととおり乗り物に乗って遊んだあと、子ども向けの演劇を鑑賞しているというわけなのだった。演題は『カレイのお姫様』。どこかのレトルト食品のような微妙なタイトルだなあ。中身はアンデルセンの『人魚姫』の焼き直しという感じの話で、こんな風だった。人間の王子様に恋をしたカレイのお姫様が人間になったはいいが、元がサカナのカレイなので美しい顔になれなかった。そのために王子様に愛の告白をされたにも関わらず、ついに自分の顔に自信を無くして海に飛び込んで元のカレイになった。それを追って海に飛び込んだ王子様のほうはイルカになった。それから二人仲良く海で暮らした、という話だ。イルカになった王子様というのもどこかで聞いたような微妙なフレーズだなあと思いつつ、俺は隣の聡子を見た。聡子が目をうるませて必死にハンカチを噛んで感動に耐えていた。「よかったなあ、カレイのお姫様、よかったなあ……」周りの親子連れが席を立って次々に俺たちの横を通り過ぎていく。子どものことだから無理もないが、中にはまじまじと聡子の顔をのぞき込んでいく子もいて、俺は顔から火を噴きそうだった。でも聡子はぜんぜん気付いていない。俺もいつの間にかそんな聡子の横顔をぼーっと眺めていた。「あの台詞、祥太感動したでしょ?」急に問いかけられてろりろりする俺。「え、あ、ああ?」「人間になったお姫様が、心ない貴族の娘達に『どうしてお前の目はそんなに右に寄っているの』ってからかわれるところ」俺はそれでようやくわかった。「ああ、そこでお姫様が言うんだよな。『長い間ずっと、思い人の方ばかりを見ていたものですから』と」「そうそう、それで王子様のハートもズッキュンとなっちゃうわけ。ああ、感動した」「それ中盤のあたりだけどな。ずっとそこから感動してたのか……長いな」「何?」「何でもありまっしぇん」その後、食事をしてからその日は聡子と別れたんだが、あいつご機嫌でメニューの中からカレーを選んでいたっけ。そして右隣に座った俺のほうに視線を固定しながら食べていた。俺が先刻じっと見つめていたことへの報復なのか? もともと不器用な聡子がそんな食べ方をしたもんだから、口の周りはカレーだらけになるわ、時間も普段の倍以上かかるわ、なんとも気まずい食事だった。それにしてもどうしてカレーにこだわっていたのか。まさか、とんでもなく壮大な勘違いをしてないだろうなあ。カレーとカレイ……。知ってるよな、いくら聡子でも。と思いつつも、俺は不安をぬぐい去れないのだった。
-了-
(三語一行即興:お題「ゆう、れい、ごき」)
※わりと久しぶりの即興文でした。
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2004.07.29
アマチュア奇術師の彼に誘われてマジックショーを見ることになった。隣の市にあるレストランで、マジックショーつきのディナーを毎週金曜日の夜に催しているというのだ。勤め人の私たちにはデートコースにもってこいだと言って彼が見つけてきた。本当に好きだなあ。ショーをやるのは佐井田天然という有名奇術師をヘタにもじったような名前の人。名前からしていかにも売れない三流奇術師らしいと私は思った。しかし行ってみて驚いた。ありきたりなカードマジックやボールマジックの類だと高をくくっていたのが、とんでもない。空中浮遊に人体切断、瞬間移動や物体消失などと、テレビでしか見たことないような大がかりな奇術が次々に披露されていった。私はおいしい料理で舌を、ついでにマジックショーで目を楽しませていたけれど、彼の方はそれどころではなかった。「わからない。人体切断と瞬間移動のトリックだけがどうしてもわからない……」としきりにつぶやいている。いつもは奇術のビデオなんかを借りてきては私に「あの仕掛けはどうなっているかわかる?」などとからかい半分に聞いてくるのになあ。それで鼻高々に解説してくれるというのに。軽い性格が身上のエンターテイナーを自称する彼にしては、余裕がない表情がとても珍しい。私はこんな顔も好きだけど。見られてラッキィ。って関係ないけど。「人体切断に瞬間移動でしょう? 双子のトリックじゃない? よくビデオとかで君が解説してくれるみたいに」と私が言うと、「それならとっくにわかってるよ、不可能だ」と渋い顔。ぶー。その顔も好きだけどさあ。でも今はトリックの研究よりもデートでしょうに、会話をぶち切らないで、つなげようって思わないわけ? これだから男って……と思いつつも、この際だから彼の料理までいただいちゃおう、と私は邪念にとらわれかけた。その時、佐井田天然その人が私たちのテーブルに近寄ってきてこう言ったのだ。「君らに、私の魔術の秘密が、わかるかな?」がたん。彼が椅子を蹴って立ち上がったのがわかった。こらこら、どうどう。あれはお客様へのサービスでしょう、君に奇術勝負を挑んできたんじゃないんだよ。と、私が心の中で必死になだめつつ、口に大量のごちそうをほおばっていると、そんな私の声が届かないのか(届きません)彼はそのままレストランの外に出てしまった。あららら。ま、私はこれくらいじゃ怒らないけどね~。第一彼のおごりだし。でも真剣に悩んだり挑発に乗ってしまう彼も可愛いよね。私もめぼしい料理は一通りフォークでつついてお腹も八分目くらいには膨れていたことだし、そのまま彼の後を追って出た。決して自分のお財布からチャージを支払うのが嫌だったんじゃなくてよ、ホホホホ。ロビーで彼はしょぼんと腰掛けて私を待っていた。「ごめん、あの一言を言われてカーっと来ちゃって、殴りかかりそうになった。自分を抑えられなくなって……」「いいよ、いいよ。気にしない。それよりもさあ、君、喉が渇いているでしょう。飲み物にも手をつけずにじっと見ていたもんね」「うん……」「何かもらってくるよ。ジュースや炭酸飲料はダメでも、水くらいだったらくれるでしょう」「ありがとう」私は小走りに店の奥に入っていった。そして、そこで見てはいけないものを見てしまった。おそろいの赤いエナメルの靴、レストランの従業員ではまず履かないと思われる気取りすぎた男物の靴が、ちらっと店の奥で踵を覗かせているのを。そう、レストランの従業員じゃなくて奇術師にだったら違和感がなさそうな靴。それは踵を六つ揃えてあった。つまり三足あった。きっちりと揃えて並べられて。うっかりしたなあ、佐井田さん。このへんのお間抜け感がまた、三流というか、ねえ。そう、佐井田天然は二人じゃなかった。三人いたのだ。双子のトリックという既成の概念にとらわれていたら気付かない大胆なトリックが使えるわけだった。でもきっと本物のプロにはバレバレなんだろうね……。私は黙ってそこを通り過ぎ、もらった氷水を持って彼に手渡した。私が知ってしまった秘密を彼に教えたら、彼は落ち込むかなあ、怒るかなあ、と考えながら。どうしようか。だって、どっちの彼も見てみたいじゃない?
-了-
(一行即興文:お題「みら あま んだ」)
※また長くてすみません~(^^;
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2004.07.27
占い師の老人の忠告を無視してあなたは故郷に似た村を住処に選んだ。仕事に倦み疲れ満身創痍のあなたを村はやさしく迎えてくれた。都会から離れた寒村であったから、人畜無害な男一人、たとえ職がなくても増えることは喜ばしく、また仕事と人間関係でボロボロになったあなたの心身の疲れにいたわりの気持ちを持ってくれたのだろうとあなたは思う。引っ越してきた日にふらりと歩いて見つけた村はずれにあるひなびた露天浴場をたちまち気に入り、あなたは毎日足繁く通うことになった。貯金はそこそこあり、生活の心配はしなくてよかったので、まずはその天然温泉で何ヶ月か体を休めたかったのだ。子どもの頃、姉に連れられて温泉に行ったことが何度かあるのをあなたは思い出す。何かとても嫌なことがあって、それ以来まったく行かなくなってしまったが、はたして何だったろうか。そのうち思い出すかもしれないし、思い出さないかもしれない。数日を温泉で過ごすうち、あなたは一人の女性が気になり始める。温泉は混浴であるとはいえ、節度を守って利用されていたから、天然石の広い浴槽の東と西の端に湯気ごしにしか彼女の姿を見ることはできない。しかし、あなたは遠目ながらもどこか懐かしい感じを覚えるその女性のことが強く意識に上るようになってゆく。そしてついに今、温泉から上がっていつものように下駄を引っかけて帰るところで、彼女に出くわしたのだ。彼女の方は温泉に着いたばかりで、笑顔で弟とおぼしき小さな男の子の手を引いている。彼女もあなたのことを見かけていたに違いなく、笑顔のままあなたに会釈する。あなたは思わず口走ってしまう。「姉さん……」彼女は五十年も前に病で亡くなった姉だったからだ。「姉さん、姉さん、姉さん……!」姉にしがみつくあなたを、彼女は悲鳴とともに振り払う。「誰か助けて! このおじいさんが襲ってきたんです! 助けて!」絶叫に驚き、脚をもつれさせ地面に叩きつけられたあなたを、彼女の弟が目をまんまるに見開いて見つめている。ブラウンの深い色の瞳に映っているのは、老いさらばえ、枯れ木のような肢体を引きつらせてうわごとをつぶやき続ける一人の男の姿であることを、あなたは覚えている。たしかに覚えている……。
-了-
(一行即興文:「にに んし ょう」追加ルール「二人称小説とすること」)
※チャットで半分冗談で出たお題でした~。二人称というのはお遊び的ですね。投稿させていただいた『ハエトリソウ』が話の種になり……という感じです(^^;
※二人称小説を探して読んでみたいと思います
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黙って上がり込んだ幼なじみの家のあいつの部屋に、日記が置いてあった。祥太の日記だ。勉強のできる祥太には似合わないヘタな字で「日記帳」と書いてある。太いペンで書かれたその字体は、私にとっては祥太と同じように物心ついてからのなじんできたもの。表紙の日付は、夏祭りの数日前。もうあれから何ヶ月も経った。「なに、これ、どうするん?」誰もいない部屋で西日に赤く染まったノートに向かってつぶやいた。手を伸ばすこともためらう気持ち、でも一目でいいから中を見てみたい気持ち、胸がつぶれそうになる。「祥太、ごめんなあ」私は目をつぶってノートを手に取った。それから、目を開く。一目でいいなんて思ったのが嘘みたいに、私は食い入るようにノートを見つめ、呼吸を整えてから、おもむろにそっとページを開く。もちろん、汚したり折ったりして証拠を残さないためだ。あいつは頭がいいから、気をつけないと絶対にばれるもんね。『七月九日 今日から日記を書くことにした。暑い。明日は祭り。今年も聡子と行くことになってしまった。』一ページ目はたったこれだけ。なに、これ、一日一ページしか書かないの? もったいないなあ。それに私の名前が出てきているのはいいけど、イヤイヤ気分が出ているような気がするのはどうしてなん? 納得いかないなあ。さ、さ、次のページ! ……次のページは真っ白だった。そっとめくったことを私はもう忘れて、怒れる神のごとき指先で次々にページをめくっていく。祥太の奴ってば優等生のくせに日記は一日坊主? 半分以上めくって、なんだか目頭が熱くなってきた。どうして? 私、どうして悲しくなってきたん? そして思い出した。祭りの夜の、私たちの口づけのこと。「祥太ぁ、どうして何も書いてないん? どうして祭りの日の日記を書かなかったん? せめて三日坊主になろうよ」あ、いけない。涙が出そうになってきちゃった。私は胸に手を当てて自分を落ちつかせた。そのうちに、日記の真っ白いページを見ていると、忘れようとしていた罪悪感が甦ってきた。「ごめんなあ、私が悪いよね。勝手に覗き見して、勝手に怒って……」指の腹でなでるようにして、パラパラパラと残りのページをひと息にめくっていった。固い裏表紙まで来て、ノートの音は止まる。私はとても驚いていた。そう、そうだった、祥太は美術はずっと5だったし、書道だって段位を持っているんだった。マジメにやったら、かわいい絵だって、きれいな文字だって書けるよね。裏表紙に小さく控えめに書かれていた女の子が、私に向かってにっこり笑ってこう言っていた。私の口癖をまねて。『日記、最後まで書けたかなあ。なあなあ』ぽつっと音がして、女の子の台詞のあたりに水の粒が落ちたのを私は知った。このままにしたら、ノートにはきっとかすかな染みが残るだろう。誰も気付かないような、小さな染みが。私は思いが壊れないように、私の罪を彼がいつか見つけて、そして許してくれると信じて、そのノートを閉じた。何食わぬ顔で明日も学校に行こう。そしていつも通りの私の声で彼におはようって言おう。
-了-
(一行即興文:お題「にっ しょ うき」)
※『金魚』からの流れでもあります~。可愛いという言葉をいただいてしまった(^^; うれしいやら恥ずかしいやら(^^;
そういえば『金魚』も、書いたときは恥ずかしかったなあ。(でもけっこう気に入っていたり~)
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2004.07.23
ミリオネアが言った。冗談めかしたウィンクとともに。「カネをいっさい使わずに生活してごらん。必ず成功する」半信半疑のまま、ぼくは実行に移した。そして、スイカ泥棒をして見張り番にサルと間違われて射殺されるまで、ぼくはたしかに幸せだった。成功を確信しながら、屋根のない家に住み、体も洗わず、ぼろぼろの布きれを身にまとい、肌身離さず預金通帳だけはしっかりと持って。ぼくが不幸せだったなんて、誰が思う?
-了-
(三語一行:お題「おね、がい、?」)
※ほんとうは「?」はお題ではないらしいのですけれど(^^;
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二人の未来を決定づける発端となる映像は、私ことサレミィの目蓋に映ったこんな予知夢だ。藍色の空の下に躍る一面のオレンジ、炎の映像。足下から吹き上げる猛熱をはらんだ強風に私の自慢の栗色の髪が煽られて乱れているけれど、私は少しも頓着しない。炎にも風にも負けない強い視線で大地をにらみつけ、隣の誰か知らない男の人に向かって力強く言うのだ。「飛ぼう」と。私の褐色の手と、彼の華奢で白い手が重なって、私たちは決意する。とん、と足首のステップで床を鳴らして、上昇する宇宙船から、炎に呑まれて苦悶する都市へとダイブする。炎熱の風、冷たい彼の手、重力から解放されて落下という自由を得る私たちの体――。予知夢は、そこで唐突に中断した。「サレミィ、あなた書記ですのに、居眠りとはいいご身分ですわね」鬼より怖い生徒会副会長が私のこめかみを『ウメボシ』していた。さっきまで鉢植えの根菜類に何か話しかけていたはずなのに、鋭い人だなあ。痛い、いたた、あたたたたたた。ほあちゃあ。私は痛みで再び薄れそうになる意識の中、さっきの夢の意味を考えていた。あれは終末の映像、あれは地球の未来? 学校の帰り道、私は同じく書記の井垣くんと一緒にゲームセンターに寄り、あっさりと夢の正体を知った。『バーチャル・シミュレーター 地球滅亡の日』今日入ったばかりの最新大型筐体、一プレイ五百円。直径五メートルはあろうという大きな球体の中に入ると、中には温冷風ジェネレーターやら、慣性重力シミュレーターによる回転機能やらが、プレイヤーを迫真の世界に連れて行ってくれるというわけだった。「あなたは地球最後の戦士です。見事に地球を救うことができるか!」こんな恥ずかしい謳い文句がちらっと目に入る。私はちょっとドキドキする。井垣くんの方を横目でこっそり覗き見ると、やっぱりあの時の、白くて華奢な指だった。居眠りをしていた私に映像を送った『ラプラスの魔眼』は、きっとこのあとの私の気持ちの高まりを察知したんだろうな。「あのさあ、サレミィ……」私の耳が、井垣くんのためらいがちな呼びかけを、私に告げていた。しっかりしろ、サレミィ。井垣くんと地球を救え。私は私に必死で声援を送っていた。
-了-
(三語一行:お題「えい とぼ たん」)
※変な作品ができました(^^; 生徒会の書記はサレミィ(アジア系の留学生?)と井垣くんというらしいです。
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彼女の汗の飛沫が、ポール脇に立って観戦していたぼくの眉間にぶつかって四散したから、ぼくは恋に落ちたんだ。頬と胸とを熱く焦がすこの思いが、動悸が速まったために生まれた錯覚じゃないかと疑って、ぼくは丸一日の間そっと胸の中にそれをしまい込んでおいた。給食の時間が過ぎ、部活動で石膏デッサンをする白と灰色のうすぼんやりと流れていく時間も終わり、すり減った運動靴の左右のつま先と、放物線の真似事をしながらそこを往復する暗緑色の石ころに相談しながら家に着いて、ベッドに顔を伏せてみて、夕食後は風呂の湯気に彼女の顔を浮かべてみて、そして眠って、明くる朝になってもやっぱりぼくは彼女が好きだった。「じつは、君は三番目に好きな人だったりして」と、放課後の彼女はバレー部の練習後なものでタオルで顔や首を拭き拭きしながら、視線を微妙にぼくから外して、気まずそうにしながら、そう言った。三番目か。でもたったの二人しか、この世で彼女にぼくより愛されている人がいないと思うだけでも幸せになれた。ぼくの頬と胸の熱さは、いっそう高まるように思えた。ぼくの顔はちょっとしまりなく笑っていたかもしれない。「いい顔。でも気づいてなかったのね」彼女は笑ってぼくの鼻をつついた。「この顔を半年近くも、見つめてたのに。お父さんと、お母さんの次に、私の好きな人は」ぼくの目の前に、大きな瞳と、赤い唇が、何かを訴えるように濡れて光っていた。
-了-
(三語一行:お題は「まつ けん さんば」)
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2004.07.13
※途中で作者が朦朧としますが、どうかお見逃し下さいませ(^^;
学園内の記録によれば、彼女はこの学園のどこにも存在しないはずだった。だのに彼女の存在は俺の興味を引きつけて離さない。篠乃儀アヤ。俺は女子高校生のどぎついほどの笑顔が大の苦手なんだが、この子の控えめなはにかむような笑顔は、ごく自然に俺の心をときほぐしてしまう。今時の高校生がスレンダーになったと言ったって、彼女のあの足首の細さには勝てる逸材はそうはいない。とは言っても、なに、恋愛感情なんかじゃない。俺の目に好ましく見えるってことは、つまり、彼女が異分子なんだってこと。問題は、彼女が「妖し」か、「折伏者」か、どちらかまだわからないということだった。近頃は折伏者が仲間を妖しと間違えて同士討ちをするなんていう悲劇がよく起こっている。それだけ多くの妖しが目覚め、それに呼応して折伏者が次々に覚醒しているという証拠だけど。最初は折伏者も、自分に顕れた超能力にとまどうし、それを隠そうとするから、仲間に気付いてもらえないことが多々あるわけだ。俺は彼女がどちらであるかわからないまま、接触を試みることにした。いざというときには……命を奪うことにためらいはない。場所は放課後の体育館、彼女がバレー部の用具片づけ当番の日を選んだ。俺はトイレを借りるフリをして、校庭側の出入り口から体育館に入る。両手でネットを抱えるようにして畳んでいる彼女と、そしてほかに誰もいないのを見て取る。「トイレ、借りていいですか?」「あ、はい、どうぞ」彼女はこちらに背を向けたまま答えた。おそらく俺が声をかけるだいぶ前に気付いていたに違いない。敵か、味方か、やはりわからない。俺が親切を装ってポールを床下に収納してやったら、ぺこりとお辞儀をして「ありがとうございます」と言ってきた。ボブカットのつやのある黒髪がさらりと流れるとうなじの白さが目に飛び込んでくる。接近しても、わからないか。試すしかない。曖昧に返事をし、歩いてトイレに入るふりをして、俺はすでに片づけられたバレーボール入れに視線の力を込めた。右側に力を込める。ぐるりと回る。そして三基の脚のひとつを強く視線で叩いてやる。ガツ、と床を跳ねるようにしてバレーボール入れがひっくり返った。ボールが体育館中にゴロゴロと転がり始め、彼女は音にびっくりしたように跳ね上がって、慌ててボールを追いかけ始める。「俺がいなければ、能力で簡単に片づけられるだろうに……」ぼそっとつぶやいた声に、彼女が反応した。案の定だ。到底常人に聞こえることのない距離だったのに、彼女はぴくっと両耳を動かした。頭の上にイクスクラメーション・マークが見えたように思う。それから肩を怒らせ、首を前に突き出しながら、彼女は俺に向かって歩いてきた。「ちょっと、ちょっと、ちょっとー。能力って? 君も変な力持ってるわけ? もしかして、これは君の仕業?」殺し合う敵同士の会話とも思えない、暢気な台詞だ。演技とは思えない感じだが……油断はできない。「ああ、ごめん。あんたを試してみたかったんだ」「試すぅ!?」彼女の瞳が金色の光を帯びた。能力を発動する合図、しかも、これは折伏者の証拠だ。彼女は人類の味方、折伏者だったのだ。残念だ! 俺は彼女を敵として葬らなくてはならない。俺の瞳が赤く光ったのを彼女の目は見えるだろうか。いや、きっと網膜に映った像の意味を理解する前に死に至るに違いない。せっかく彼女のことを気に入っていたのだが、仲間でなかったのなら、仕方がない。俺の能力『慣性への冒涜』で、彼女は一瞬の時をまたいで生から死の世界に旅立つのだ。十億歳の大理石よりも硬い沈黙にいざなわれて。「あー、もう。あなたが私の敵か味方かは知らないけどね。今回は見逃してあげるから。いたずらは許さないよ」おかしい。彼女の暢気な声が聞こえる。俺の能力も発動していない。「なにを、した……?」思わず声が漏れた。そして五感が違和感を訴えている。おかしい、おかしすぎる。ぶっちゃけありえない(←作者朦朧)。さっきのバレーボールが、元の位置にすっかり納まっている。彼女は今まさに俺の目の前にいたはずなのに体育館の真ん中に戻っていて、俺に背を向けてネットを畳んでいる。わけがわからないが、俺は「妖し」の一員として、「折伏者」を見逃すわけにはいかなかった。「浴びろ、『慣性への冒涜』」今度こそ、俺の視線が彼女を静止させるはずだ。「あ、そういう能力なの」俺が彼女のそんな言葉を聞いたとき、俺は体育館の入り口の位置に戻されていた。「どう、記憶飛んでない? 私の能力は使いすぎると相手の記憶も一部壊しちゃうみたいで、危険なんだよね」時が戻ったのか、と俺は錯覚するところだった。違う。彼女はネットを畳み終えて、用具室に入れるところだったのだ。時間は過ぎている。だが、俺は知らないうちに元の場所に移動させられている。どんなからくりだ。彼女の能力はなんだ。俺は三度試みた。大規模破壊になるが、体育館全体に『慣性への冒涜』を働かせる。静止しているものをまったく逆の激しい運動の状態に転換できるこの能力で体育館全体を液体状に動かし、流動する質量で圧殺するのだ。床が、壁が、ガラスが、天井を蜘蛛の巣のように縦横に覆っていた金属のパイプ類が、水飴のようにどろりと溶けだし、空間をシュールレアリズムの世界に変えていく。「妖しの者は、逃げるわけにはいかなくてね。仲間に殺されちまうからな。悪いけど、何も知らないまま、死んでくれ」その時。「バカヤロウ!」野太い声とともに、決め台詞を言ったはずの俺の顎に、拳がクリーンヒットしていた。な、何だ、わけがわからない。今の声は、女の声じゃなかったぞ? それに流動する体育館は、どうなった? 「お前、ほんっとーーに、言ってもわからないヤツの典型な。こっちが、おとなしくあきらめろ、お前じゃ俺に勝てねーよ、って言ってるのがわかんねーの? たまーにお前みたいなニブいヤツが現れるんだよな。何なんだよ、さっき言ってた妖しとか折伏者ってのはアニメの設定と違うわけ? 俺は頭悪いからわけがわかんねー。でもお前ほどニブチンじゃないけどなー。あーもう自分で何を言ってるんだか!」「ま、まさか……男?」「ニブチーン! 篠乃儀アヤオが男だってことくらいこの学校の生徒なら誰でも知ってるだろー。まったくキレたときくらいしか男言葉は使わないからさあ、新入生には間違えられることが多いけどさあ、ちゃんと部活紹介でもくどいほど説明してるのにさあ、ってお前も勘違いしてる新入生なのかよ」「うそ……」「信じろ、ほれ」篠乃儀アヤが俺の手を取って胸に当てる。たしかにぺったんぺったん。「俺は、この学校の生徒じゃない。お前のような折伏者を見つけたら殺し、仲間がいたら助け出すために侵入した」彼はふうん、と、男だとわかっても女にしか見えないつるっとしたまるい顎と頬を片手でこすりながら、視線を斜め上に向けて、何か考えるような顔つきをした。「で、俺を殺せなかったら、お前が殺されるの?」「そうなるな」「俺はお前を殺すつもりはないけど、どうする?」真顔でこんなことを言ってこちらを見つめてくるまなざしは、嘘を言っているようには思えなかった。「あはははは。あんたの言うようにアニメの設定だったら、これで俺が仲間になるんだろうけどなあ」俺は笑ってしまった。いや、だって笑うしかないじゃないか。彼は、まだ私が男だと思ってるみたいだからさ。だめだなあ、女の子じゃないんじゃないか。予期してなかった自分が悪いとは言え。惚れるとは、ね。こりゃあ任務失敗だ。「仲間にはならないけど、俺は組織を抜けるわ。あんたに負けたのは紛れもない事実だし」彼は半信半疑のようだったけれど「ふうん。なんだかいやにあっさりしてるな。まあいいや、あとから変なのが現れたら、慣性への冒涜は自滅したって言っとく」「うわははは、事実だな。じゃあ、死んだ証拠に、もう用のないこの学ラン、置いていくか。それとあんたの能力、あれわかったぞ。そうだな、こっちの能力になぞらえて言うなら、因果律への冒涜ってところか。因果可逆の視線」「あ、それかっこいいかも。名前いただき」そう言って片目をつぶって見せた緊張感のない彼に私は学ランを投げつけて、その場を去った。学ランを脱いだ姿を見た彼がぽかんと口を開けて呆けていたのが見えたから、やっぱりこっちが女だってことに最後まで気付いていなかったんだな。ちくしょう、なんか悔しい。なんだかわからないけど、悔しくて胸が爆発しそうに熱かった。
-了ー
※ついに九枚作品……しかも午前4時近くなり、ほんとうに朦朧としながら、まとめきれないものをなんとか書いたという感じです。書きたかったライトノベルっぽくはなったような気もするのですけれど、まだまだ甘いし、いろいろとなんかおかしいし(^^; どこかで見たような感じだし(^^; でもこの一年は、「拙いところも出す」ということにしたのでした。うん、そうだった。ということで、載せます。
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2004.07.11
ぼくはマン島の蒸気機関車に揺られて雲を眺めている。大西洋の雲はどことなく、ぼくの故郷と違っているような気がした。そうだなあ、こちらの雲は話す言語もイングリッシュだったり? そんなことを思うと、向こうの水平線上に見える赤い雲はダブリン訛りの強気な女でぶつぶつ不平を言っているように思え、頭の上にさしかかっているのっぽの雲はちょびヒゲを生やしたジェントルマンで、きれいな発音だけれどちょっと鼻につかないでもないクイーンズイングリッシュでもって通りすがりの挨拶をしてくる気がしてくる。ガタンという音とともに列車の向きがかわり、ダブリン女もジェントルマンも屋根に隠されて見えなくなってしまった。あははは、とぼくは笑い、家に帰ったら作りかけのミニSLのゴライアスを、この機関車と同じ緑と赤に塗ってやろうと心に決めた。この暑くてからりと乾いた空の下の雰囲気を出すためには、緑はアレキサンドライトの色でなくちゃ。赤もやっぱり夜の灯火に恥じらうアレキサンドライトの色がいい。昼の顔と夜の顔とを持つあの宝石が、今のぼくの気分にはぴったりに思われた。ハンチング帽を目深にかぶり直し、サスペンダーを両手の親指で玩んで、マン島の線路の上で、ぼくは失恋の痛みに耐えている。ポッポーウと汽笛が鳴り、ぼくの頬をぴりぴり震わせた。蒸気機関車は今は海を離れて丘の上を走っている。ぼくの目にあふれてきた涙を陽光のせいにして、走っている。
-了-
(三語一行:お題「マン ドラ ゴラ」)
※お題通りカタカナで使おうと決意して書いてみたのが、これです。えーと、チャット中のことで、イメージだけで書いています。マン島は実在しているし、蒸気機関車も走っているのですけれど、おづねが記述した通りのものではないことをお断りいたします(^^;
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2004.07.10
カプノスと星霊学者が名付けた煙のような生命体は、どうやら知能を持っているらしかった。ようやく警察の機動隊にも単分子ワイヤーネットや、電磁結界の装備が与えられ、よほどの手強い相手以外には、我が特殊部隊インビンシブルの出動の要請が入らなくなっていた昨今だったのだが。場所は三原山。火口より大量に湧き出した煙がどうやらカプノスであるらしかった。「住民はすでに退避させてある。バンニップのようなアストラル化はできないと予想されるが、発見次第手早く捕獲せよ。だが、弾の無駄撃ちはするな」今回は簡易アセンブル・スーツによる地上作戦だった。このスーツは背嚢に携行し、簡単な組み立てで人間の筋力や耐久力を飛躍的に増大させるもので、山岳や湖沼地帯での作戦には不可欠な装備である。しかし、むしろ今までの作戦と違っている最大の点は装備ではなく、随員を加えたことだった。「あなただけ丸腰に近いというのはいささか安全面で危惧が残りますが……」と私が言ったのは儀礼的なものだ。「いえ、カプノスというのがご説明通りのモノでしたら、ぼくには危険はありませんから」と答えた誠実そうな青年は、高校生の息子といくらも歳が違わないだろう、普通すぎる容姿だった。モノトーンのスーツに黒ネクタイ、手首には幾重にも数珠。親類の葬儀帰りにしか見えないのだが、この違和感の正体はきっと作戦で明らかになるのだろう。私の予想は当たった。しかもいささか悪い方に。「住人は全員退避したのではなかったのか!」作戦開始から二十二分後、部下の報告を聞いた私は、本部につながる無線に向かって怒号した。火口付近に明らかに人間と思われる物体が少なくとも五つ、目視できたというのだ。「そう怒鳴るな、単細胞が」若い女性オペレータに変わって無線画像通信に出たのは、いつもの星霊学者のジイさまだった。「あれはな、人ではない。いや、正確に言うなら、もう人とは呼べないというのが正しい」「どういうことですか」奥歯がぎりりと鳴った。「ゾンビー、という言葉をもちろん知っておるな、インビンシブル」「もちろんです……だいたい察しはつきました」ゾンビーとは、狭義ではハイチ共和国、広くは西インド諸島の地域で信仰されているブーズー教の怪物で、死者に対しておぞましいゾンビ・パウダーを用いることで、術者の意のままに操られる死体のことである。ゾンビーとなった死体の魂は破滅し、二度と救われることはないと言われる。「人間をあのように操っているのが、カプノスである。できるだけ多くのカプノスを逃さず捕獲するのだ、わかったかな」私の奥歯がもう一度鳴った。先月硬質セラミックのものと換えた歯は、もういくら噛んでも砕けることはない。そこに先ほどの青年が口を挟んできた。「隊長さん、ちょっといいですか?」この青年を随行したことに何らかの意味はあるのだろう。私は黙って頷いた。「ドクター、先に説明していただいたように、カプノスというのが取り付いた人間がゾンビーのようなものでしたら、ぼくの専門です。まずは試してもいいでしょうか?」「もちろんだ、木国谷くん。見事祓ってみたまえ。インビンシブルがカプノスのみ回収する」この青年は木国谷というらしい。リーダーである私に伝えるのを怠るとは、現場に何も知らせない体質にもあきれるほかない。青年は、「聞いたかい、百日紅。なかなか珍しい経験になっただろう?」と誰もいない空間に向かって話しかけている。「隊長さん、ぼくも出ます」目つきが急に険しくなった。なるほど、我が部隊に随行していながら緊張感のかけらもなかったのは、この青年がプロだからなのだろうと私は理解した。自分のテンションを必要に応じて調整できるのは、一流の証である。「では、頼むよ、木国谷くん」会話の内容から、どうやら彼はゾンビーを元の人間に戻す手段を持っているらしい。星霊たちが実在するのだから、人間の中にも特殊な能力を持つ者がいてもおかしくはないのだろう。青年が言った。「あのう、隊長さん、言いにくいのですけど……ぼくにもやっぱりアセンブル・スーツを貸していただけませんか? 山登り、きつそうなんで」もじもじとする彼に、私は思わず腰がくだけた。……それから十数分後。無線のスピーカは彼の悲鳴を流し続けていた。「うっっひゃぁああぁぁ。この、スーツ、スピード出過ぎ、出過ぎ、死ぬ、死ぬ」「痛ぁぁーーーー、枝に殴られたぁ、たんこぶできたー」「うひょっ、なんだアレ、崖崩れてるじゃん、何、ジャンプ? ジャンプ? どのボタン? これ? いいいっぎゃぁぁぁぁぁ、飛びすぎ、怖い怖い怖いーーー。落ちる死ぬ、落ちて死ぬぅぅぅ。んんんんん…………っ、着地で脚しびれたぁーーーー」あとで聞いたのだが、彼は常時無線がオンになっていることを忘れていたらしい。任務の性質上、すべての会話は録音されていて消去できないのだと伝えると、真っ赤になって慌てていた。しかし彼のその後の活躍は見事なものだった。単分子ネットも、電磁結界も持たないというのに、カプノス五体すべてを一分とかからずに住人たちの体から引きはがし、もとの黒煙に戻してしまった。私は部下の一部隊に、カプノスが分離した住人たちを保護させ、残りの部隊にはカプノス捕獲を命じた。質の悪い星霊を捕獲しようと部下達が動き始めたその瞬間、最悪の事態が起こった。三原山の噴火が起こり始めたのだ。もうもうと立ち上る黒煙があたりを埋め尽くしはじめ、カプノスを見つけることが極めて困難になってしまった。いつ噴火が起こるかわからない状況であるため、カプノス捕獲は断念するほかなかった。我が部隊はあの青年を含む部下たちと住人を回収すると、本部へと撤収した。あの木国谷という青年とは、本部で別れたきり、その後は会っていない。だが、星霊たちがこの世に跋扈し続ける限り、きっとまた会う機会もあるだろうと思う。そうだな、そのときには最近元気がない息子の恋愛相談相手になってもらえるように頼んでみようか、彼の独特のキャラクターはどこか人をほっとさせるものがある。ただ、ひとつどうしても気になることがあった。本部の秘密主義者たちに聞いてもどうせ回答はないだろうとわかっているが、あの青年は一体あのとき何をしたのだろう。私は一人、極秘資料に分類されたあの作戦の録音テープをすべて聴いてみた。テープには、あの青年の声と、そしてあの場にはいなかった筈の者のこんな会話が残されているのみで、結局は真相は想像するしかないのだった。……「やっとやる気になったんだね、百日紅」「要するに、電解質に憑いた精神体という意味ではカプノスとかいう奴らも、我らも、人間だって、大した違いはない。少々危険だが、ひとつの器に限界以上のモノは入らない道理、あれを試してみるか」「強い霊、つまり百日紅が相手に憑依することで、対象となる悪霊を強制排撃、だね。理屈の上では可能でも、生きている人にはちょっとためらわれるもんね。これはぼくらにもちょっとしたチャンスだね」「暢気なことを。お前が逆に憑かれたりしたら、あの物騒な軍隊に殺されるのだぞ」「まあまあ、危険はいつものことで」「それに、危険なだけではない。気になることもあるのだがな」「ああ、ゾンビ・パウダーね。カプノスから間違いなく精製できるだろうね。あれが学者先生たちの手に渡ることになるのだけは厄介だね。そこはうまくやってほしいな、地霊たちに頼んでおくれよ」「かなりの借りができるが……仕方ないか」「決まり。じゃ、行くよ、百日紅」この会話の意味は、考えても断片的にしかわからない。この世には神秘がたくさん隠されているのだろう。私の仕事は、その神秘に体ごとぶつかっていくことだけなのだ。
-了-
(三語一行:お題「はら、がく、ろい」)
※一改行にする意味があるのかと言われても反論できません~(^^; 三語一行即興文は、チャット中にリアルタイムで書くのですけれど、一時間もかかってしまいました。お待たせした方々、すみません。
※お話としては、『バンニップ』『カヅチ』『サラマンダー』(三語一行)の続きで、また『百日紅の写真にまつわるぼくの話』(三語即興文)の続きでもあります。彼の名前は木国谷(きくにや)というのが、わかりました(^^;
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2004.07.09
「寒いな、信濃くん」「ええ、寒いですわね、お父さん」「僕は古藤さんではなくて、お父さんだよ」「ちゃんとそう言いましたわ」「……今、何かおかしくなかったかい?」「別におかしくありませんわ」「とにかくだね、我が校の誇るセントラルヒーティングが故障してもう三日、この寒さにも慣れるかと思ったら、いっかな、そんなことはない」「一般生徒も帰ってしまって、ますます寒いですわね」「よし、ここは、あれだ、寒さを和らげるために運動だ」「それはいいアイデアですわ、古藤さん」「だろう、よし、懐かしいおしくらまんじゅうをやろうじゃないか」「いいですわ。ではせーの、えいっ」「おーしくらまんじゅう、押されて泣くな」「ああん、もう、そんなに強く押したらイヤですわ」「なんの、遠慮していては暖かくなれないぞ、信濃くん」「わかりましたわ、えいえいえい」「あ、あの~。ワタシ、挟まれてますけど。痛いですけど~」「何か言ったかい、信濃くん」「何も言ってませんわ」「ああ~、体が曲がるんですけど~」(一時間後)「あら、マンドラゴラ、どうしたんですの、こんなに四角く変形しちゃって」「四角いラゴラがま~るく収めまっせって感じだな」「……(やっぱりオヤジですわ)」
-了-
(三語一行:お題は「えい じゅう しかく」)
※やっぱり深夜のチャットはちょっとノリが違うようです~(^^;
おバカ系の三語一行が量産されつつあります。
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2004.07.07
ぼくはずっと集めている。
世界の記憶が集まる場所で。
ヒトの生きた痕跡を集めている。
茶色い砂ばかりになってしまった地球にはヒトはもう一人も生きていない。それでもまだ地球の周りには小さな金属の星々がたくさん巡っていて、この惑星を何度でも滅ぼせる可能性を懐に抱いているのだった。
海は大半が干上がってしまっている。黒い濁流が一万メートルの断崖の下を流れているだけ。この断崖は以前は海溝と呼ばれていて、何万気圧の水圧の底だったとにわかには信じられない気がする。
決して腐食しないぼくのボディにはマニピュレータがついている。ヒトの腕にそっくりな形をしている。
この惑星が死んだ時、ぼくはボディに生き物を一匹かくまっていた。胸板を一枚はがしてその生き物をとりだして、掌に載せてみた。
ケロロと彼女は鳴いた。
世界が滅んでもいつまでもそばにいてくれる彼女のことを、ぼくは裏切るまいと思う。ありったけの愛情を注いで彼女とその子孫を生かしていこうと決意する。
何千万年か、何億年か、進化が再び知性を獲得するのには途方もない時間がかかるだろう。
それだけの時間があれば、世界の記憶はすべて雨に流れるに違いない。海流に乗って世界のいちばん深い場所、つまりここに集まってくるだろう。
そうすれば、ぼくは再び世界を元通りに修復できるだろう。
ぼくの掌の上でもう一度、彼女がケロロと鳴いた。
-了-
(三語一行:お題「まい たけ そば」)
※かなり眠くてぼけぼけの頭で書いたので、なんだか意味のわからないものになっているかもしれません。
一度引っ込めて、書き直したいなあ(^^;
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2004.07.05
「こ、こ、こ、古藤さん、ちょっと、ちょっと待ってくださりません? 今取り込み中なんですの!」「信濃くん、生徒会室を締め切って何をしているんだい。僕は一応会長なのだから、一言あってもいいと思うけれどね。それに僕の名前はお父さんではないよ、古藤だ」「ちゃんとそう言いましたわ」「……とにかく、入るよ」ガチャリと紫檀のドアを開いて中に入る。そこには、脱いできちんとソファの上に畳まれた女子生徒の制服、その隣に乙女の肌を露わにして背中を丸める信濃と、彼女の腰骨のあたりにチューブ入りの軟膏を塗っているマンドラゴラがいた。「インドメタシン入りの軟膏で、腰痛によく効くんですけど~。古藤さんも、ひとつお試しあれ~」マンドラゴラのいかにも根菜類といったのんびり節とは裏腹に、信濃の絶叫が校内を揺るがした。校内一の美女で通っている信濃にとっては腰痛の悩みを知られるのは裸を見られるよりも恥ずかしいのだった。「古藤さんの、バカァァァァーですわァァァ」パッチーンと頬を張る音が、七月の風渡るさわやかな廊下を駆け抜けていった。
-了-
(三語一行:お題「さん いん せん」)
※マンドラゴラが再々登場です~(^^;
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2004.07.03
実験用マウスの一匹がとてもなついてしまったので、教授に頼んでもらい受け、部屋で飼うことにしたんだ。二十八にもなって就職のあてもなく、大学院で続けている遺伝子研究もドイツやアメリカの研究者に同じテーマでどんどん先に行かれて、半年ごとに白紙に戻ることの繰り返し。せめて孤独を癒す相手がほしかった。昭和の匂いがこびりついた四畳半でちびりちびりと呑む晩酌も、杯を交わす相手さえいれば、これもどうして乙なもんだ。人間と違って愚痴も言わないし、偉ぶったりもしない、最高の相手じゃないか、このネズ公はさ。ん、待てよ、強い作物や役に立つ動物を作る研究ばかりが進んでいるけれど、逆の発想はどうだ。賢くない犬、鼠を捕らない猫、木をかじらない鼠。家畜や作物だけが遺伝子研究の対象であるのは今だけで、遠くない未来には必ず愛玩動物も遺伝子改良される流れが生まれるに違いない。このアイデアで行ってみようか。他人と競うのじゃなくて、誰もいない道を進むほうが自分には合ってるだろうさ。こんなネズミに教えられることもあるんだなあ。「おい、お前には名前もつけてやってなかったなあ。そうだな、敬意の表れに、名前をつけてやろう」。そこで、アルジャーノンという名前をつけた。立派すぎるって? そうかもね。万が一、将来、遺伝子工学の権威として鈴木智有里という名前を見かけることがあったら、このネズ公のことも一緒に思い出してくれると、うれしいかな。
-了-
(三語一行:お題「のん びり いこう」)
※アップロード失敗していました~(^^; このお題で書いたひとつめが、これです。
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移項の問題もわからないの、と私は中学一年生の弟を怒鳴りつけ、びりびりに計算用紙を破ってゴミ箱に捨てると、頭に溜まった血をどうにかしようと冷蔵庫からアイスノンを持ってきて額に装着し、「あんたのカノジョ、この夏休みに猛勉強しないとマズイわよ、しっかり家庭教師してやりなさいよ!」と、罪もない弟にさんざんハッパをかけたのだった。
-了-
(三語一行:お題「のん びり いこう」)
※やっと一行で書けました(^^; お題をひねって使おうとすると、長くなりますね~。これは思いついたままに一気に書きました~。
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鍋の中に真っ赤に焼けた観音様の像が放り込まれた。じゅっと音を立てて霊気のように湯気が湧き、観音様の怒りを表したみたいだった。「ほらな、鍋の中が煮えてくるだろう。こうやって焼いた鉄を入れれば、これで立派な料理なんだよ」「アニキ、こんなことしてバチが当たり前せんかねえ」「何を言ってるか、観音様は魂の救済に来てくださっているんだぞ。マトモなカマドすらない被災地の俺たちを、こうして餓えから救ってくださっているんじゃねえか」「そうッスよね、仏の国からぼくらのために来たぞ我らの観音様、ですよね」アニキの不敵な口元と白い歯が印象的で、それは力強くいつも俺たちを元気づけてくれた。このアニキと一緒だったら怖くない、神にも仏にも見捨てられたかもしれないけど、俺たちは意地でも生きてやるんだ、と思えた。……夢だった。もう何十年も前のことを見たのだ。今になって、どうして思い出したのだろう。アニキはあのあと「愛の家」の親のいない子どもたちの空腹を満たすために働きづめで体を壊して、あげく川に落ちて亡くなった。今にして思うのは、あれは事故でなく重病を患った自分の身が「弟」たちの負担になることを案じての身投げだったのではないかと思う。それからアニキ代行となった私が曲がりなりにもここまでなんとかやってこられたが、亡くなったアニキの思いを無駄にしたくない一心だった。あのときの「愛の家」は、今では延福寺と名を変えた。幸福をこの国中、いや世界中に広げて行きたいという願いを込めた。がらりと広いだけで何もない本堂には、この貧しい寺にふさわしく、小さな、長い年月を耐え、こびりついた錆も払えないほどに赤くなった、美しさのかけらもない観音菩薩像がひとつある。あのときに幾度となく真っ赤に焼けて私たちの命をつないでくださった観音様は、今でも私たちの命を見守ってくださっているのだと私は思う。薄くほほえんでいた口元は少しはげて欠けている。それがまるで、いつか見た不敵な笑みにも似ているように、私には思われた。
-了-
(三語一行:お題「のん びり いこう」)
※おかしいなあ~(^^; さきほどのが長すぎるため、書き直したはずなのに……もっと長くなってしまいました。
次こそ短いのを! ということでまた書きました。(懲りないなあ)
※訂正。「さきほどの」というのをアップロード失敗していました(^^; 二つ後にアップロードし直しました。
『ネズミと智有里』です。
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2004.07.01
気球というモノに一度乗ってみたかった。あの大きな風船のお化けに乗っている人を見るたびに、どんな気持ちだろう、自分まで風船のお化けになった気持ちがするんだろうな、なんて思ってきたんだもの。だから今日はひとつ勇気を出して、気球に乗ってみることにした。シューシューとバーナーが鳴り、あたためた空気を大量に上のでっかい袋に送り込んでいる。怖い顔をした人が「もうじき上がるぞお」なんて似合わない笑顔で言っている。オイラに言っているわけじゃないんだろう。きっと気球に呼びかけているんだろうね。やがてほとんど宙に浮いたのに気付かないくらい自然に気球は地面を離れた。それからぐんぐん高度を上げるのでオイラはちょっと肌寒くなった。怖い顔の人は「我がふるさとの美田の青さ、すがすがしきかな」と言っているようだった。田んぼか。田んぼを見ると豆をほじりたくなるなあ。オイラはそろそろ本気で寒くなってきた気球のてっぺんに別れを告げ、飛び去った。怖い顔の人間にカア、と一言お礼を言って。
-了-
(三語一行:お題「まめ、でん、きゅう」)
※ライトな感じでさらっと読めるものを書きたいなあ、と思い、書いてみました(^^;
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2004.06.26
ハルマキを食べさせられた俺は、案の定胃薬とハラマキのお世話になり、今は布団の住人だった。犯人であるところの中学二年生の少女、つまり幼なじみの聡子は、「看病に来なくていい」という心の底からの俺の願いを「遠慮しなくていいから、なあなあ」などと軽くいなして押しかけてきた。「おかゆくらいしか食べられないんでしょう」それを聞いて俺の背筋は凍った。「よせ、やめろ、俺は食べたくない」「だめだよ、病気の時ほどしっかり食べないと」聡子の無敵バリアが俺の抗議をあっさり無効化した。台所に向かう聡子。心配で追いかける俺。「やめろ、おかゆにチーズと酢を混ぜんな」「いいから、祥太は寝ていて」すったもんだの末できあがったのは、お世辞にもうまそうとは言えない、いわばなんというか、体調不良の時などによくお目にかかる、人間の口から生成される物体によく似た粘着質の何か……これ、食うのか? 俺の表情と、鍋の中の白い凶器を見比べて、「祥太、ごめん。これ人間の食べるものじゃないね。大変恐縮ですが、祥太のお母さんに作り直してもらってください。今、捨てます」聡子が心底すまなそうに体をちぢこませる。俺の心臓がずきんとする。ああ、俺って男はなんてバカなんだ。やめとけ、やめとけ、そのまま捨てさせてしまえ、という心の声に耳を貸さず、言ってしまうのだ。「そんなことねーよ、俺食うよ」……言っちゃった。なんか一生こんな風に生きていくのかな、俺。
-了-
(一行即興文:お題「ぜん、こう、へん」)
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2004.06.22
二人の育ての親のアッカ・ラレンティアは「豆を植えて、芽がたくさん出たほうに、この森の小屋を譲りましょう」と言った。兄は注意深く種に土をかぶせ、水をやった。弟は種を吟味して選び、蒔いた場所で寝ずの番をした。芽が生えそろうまで三日かかった。兄であるレムスは自分の畑にわずかに多くの芽が出ていたのを知って、余分な数だけこっそりと引き抜いて捨てた。弟ロムルスはずっと畑の前に座ってまんじりともせず、赤い目をぎらぎらさせていた。アッカがまず兄レムスの畑にやってき、芽を数えて言った。「レムスは八十二の豆を生やさせました」次いでロムルスの畑に足を運んで言った。彼女はレムスが弟のために自分の畑からいくつかの芽を引き抜いたのを知っていた。「狼に育てられてきたあなたたちは、人間の営みをほとんど知りません。ですから農耕の大切さを教えようと思いました。どちらが勝ったかは重要ではありません。作物を育て、家族を養うために、みんな大変な思いをしているのがわかればよいのです」そしてにこやかに二人の頭をなでた。「待ってください。私の畑を数えてください」弟は血走った目で、洗われずに獣のような脂気にぬめった髪を振り回すようにして語気も強く訴えた。あきれるようにアッカが数え、「八十二です」と言ったとき、ロムルスは八重歯をむき出してにやりと笑い、立ち上がった。ちょうど彼が足組みして隠されていた場所に、緑が一本、芽吹いていた。
-了-
(一行即興文:お題「たな、かか、なた」)
※ローマ建国神話の、狼に育てられた双子レムスとロムルスから題材を取りました~。豆のエピソードは創作です。
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2004.06.20
泥の精霊ボルボロスが頭の上に落ちてきた、と言って怒りながら振り回している金髪の「それ」は、たしかに私たちによく似ている形をしていた。「スピンテール、これは君たちの一人だろう、ぼくの頭にぶつかってきたんだ。よく注意してくれないと困るじゃないか」何も私に言ってこなくてもいいと思うけれど。私は一族の中のすれっからし、パチパチ頭のスピンテールじゃないの。文句を言うなら族長にしたらいいのに、ま、ボルボロスも強い者には何も言えない臆病者だからね、しょうがないか。ぷんすか湯気が上がりそうな頭で去っていったボルボロスが置いていったのは、よく見ると私たちと違って二本の足を持った人形だった。ははん、この海の底ではボルボロスも人間なんて見たことがなかっただろうね。この尖った冠、きっとこれが命中して突き刺さったんだ、あのチョウチンアンコウモドキの頭に金ぴかの人形が突き刺さっているところを想像したら、うわっはは、おかしくてお腹がよじれてウロコが飛び散りそう。今日は私たちマーメイドアカデミーの六期生が人魚の住処であるマーメイドガーデンの巡回を担当する日だ。本当なら、班長に人形を届けなければいけないところだけれど……。じつは私自身、陸上に棲むという人間の姿をこの目で見たことはない。だから、こっそり部屋に持ち帰って毎日眺めることにした。時が経ち、いつしか私はこの人間の姿に恋をしていた。いつか、人間の男性に巡り会いたい、そう思うようになった。意外にも、私のようなすれっからしを気に入る物好きなマーマンが、何人もいて、それぞれに魅力的なプロポーズをしてくれたのだけど、私は全部断って、ずっと独り身でいた。やがて誰も私にダンナをあてがうなんて話を持ち出さなくなった。それからさらに二十年も経った頃、風変わりなところと、地上の世界のことをよく調べて知っているということから推されて、私は族長になった。さらに二百年も経ち、海底火山が大噴火するという大惨事が起こった。私たちの一族は、マーメイドガーデンに住めなくなり、新天地を求めた。新しい族長と共に。一族が全員旅だった時、私は一人、群れを離れて海を上へ上へと昇っていった。激しい水温の変化と勝手のわからない海流に翻弄され、私の老いた体はぼろぼろになっていった。皮膚はほとんどすべてはがれ、目は曇って見えなくなり、かつてはホシヒトデのようにパチパチだった髪もしおれて抜け落ちていった。でも幸運としか言いようがない。私は人間に発見されて、彼らと一緒に連れて行かれたのだ。指先の感覚もなく。目も見えなかったけれど、かろうじて耳だけは少し聞こえたのだ。今では私は博物館というところに安置され、人間たちのささやくような声を聞く毎日だ。彼らは私がこのような姿になっても生きているということに気付いていないのかもしれない。姿勢も変えることができずにじっとしてるのは苦痛ではあったけれど、私は今でもあの人形と一緒だったから、不安はなかった。いつしか人間よりも、あの人形こそが私にとって大事だということに、私は気付いた。ずっと、一緒に、ここで生きながら朽ち果てよう、あのときの淡い気持ちとともに。
-了-
(一行即興文:お題「きせ、いちゅ、うに」(ただし帰省中、規制中、寄生虫は禁止))
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2004.06.18
その男はたいそうな力自慢でな、城下でもいちばん大きな寺の住職をやっておったんだが、五百貫もある鐘が野分で落ちた際にも、たった一人でもとの場所に引き摺り運んで直したというんで、鐘摺りの和尚などと呼ばれておった。この話を聞きつけたのが東海一の力自慢の天狗でな、尾張の殿様の正月の宴会の席の呼ばれもしない酒に酔うた上の大口の「鐘摺りの和尚なんぞ富士の山の向こうまで、右腕一本で投げ飛ばしてやるわいな。どれ、相撲取ろうぞ、相撲やらせよ」と言うのを聞きとがめ、時の世継ぎの吉法師が、それほど大口叩くならと和尚と相撲を取らせたそうな。二人の相撲は三日三晩続き、どうにも勝負がつかなかった。しびれを切らした吉法師が、天狗が腰に大事そうにくくりつけておった遠見の筒の緒をひょいと取り上げ「富士の向こうの小田原の城まで取りに行って参れ」と叫ぶや放り投げたのに天狗は肝をつぶし、そのまま空を飛んで北条の城まで行ってしまったんだとさ。じつは吉法師は投げるふりをして遠見の筒を懐に隠し、まんまと天狗めを騙したんだと。天狗は騙されたのに気づいて復讐しに来ただろうって言うのかい。さあ、どうだかねえ。騙されたと知っては恥ずかしくて堂々とは姿を現せず、復讐するにしてもこっそりと山の中で、なんていう風にするのじゃないかい。さあ、さあ、これでジイの話はおしまいだよ。いい子は寝るがよい。こらこら、いらずら好きな童だの、この筒は何かだって。これはジイがその昔に褒美にもらった宝物じゃ。ん、遠くがよう見えるか、そうかそうか、そりゃあよかったのう。
-了-
(一行即興文:お題「ねず、みの、おを」)
※同じお題で書いても、ずいぶん違うものになるのですね~。それにしても長すぎますね、あはは(^^;
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ドラクエ8が発売された。一睡もせずにプレイして迎えた月曜日の朝の寝不足の顔を、通学バスを待っている間、喫茶店の色つきガラスに映してみた。目蓋が瞳を半分隠して垂れ下がり、こけた頬にしまりのない口元のひどい顔がそこにあった。金曜日の晩からずっと寝ずにレベル35まで上げたんだ、無理もないよ、がんばれ少女、つまり私。目が慣れてくると、喫茶店の中の様子が見え始めた。サンドイッチとコーヒーをトレーに載せたスーツ姿のハンサムなお兄さんが、私の顔を見てぎょっとした表情をしていた。しまった、こんな顔をハンサムに見られてしまった、一生の不覚! 私はぐひゃっと悲鳴を上げて飛び退いた。その拍子に喫茶店の前まではみ出して並んでいる違法駐輪の自転車の群れを蹴飛ばしてしまい、ドミノ倒しをしてしまった。ぐひぇぇぇぇ、と寝不足に加えて混乱のあまり叫んだ私を不憫に思ってか、あるいは目撃してしまった以上逃げられないと観念したのか、その後三十分以上にもわたって自転車起こしを手伝ってくれたのが、そのハンサムで、一緒に学校に遅刻して行くことになった新任の数学の先生で、それでまあ、先月結婚した私のダンナなんだけどね。
-了-
(一行即興文:お題「ねず、みの、おを」)
※ちょっと不出来なので、書き直して次のものをチャットで公表しました(^^;
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同点で迎えた九回の裏、第六球目の内側を攻めるボールを、完全にバットの真芯で捉えられてしまった。「負けた!」俺のにきびだらけの顔に脂汗がにじむ。ここで、甲子園で負けてしまったら、俺の今までの努力、睡眠も、小遣いも犠牲にしてきた日々は、何のためだったのか。悪い予感は的中し、白いボールはポリゴンの甲子園球場の高い空に吸い込まれて消えた。お金を貯めて買い、今日まで寝ずに研究し続けた『パタパタプロ野球2004』。俺は勝ち誇るノリユキにコントローラーを投げつけた。
-了-
(一行即興文:お題は「っき、ゅう、のう」 )
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僕らの発見は大きく未来に影響を与えるに違いないと思われたので、この喜びを絵画にして残すことにしよう、と、僕と妻は二人で住まいの壁に顔料を使って僕らの発見の偉大さを残すことにしたのだけれど、さて何万年も先の僕らの子孫は、わかってくれるだろうか、火を道具に使うことを発見したのが僕らだってことを。
-了-
(一行即興文:お題は「きく、くみ、くら」)
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2004.06.17
相方によれば、その人はオカメの上様と呼ばれているとのことで、おれっちも一度でいいからそんな名前の人がどんな顔をしているか見てみたいもんだと思っていた。長屋の角を曲がったところで、上品な物腰の日傘を差したご婦人に声をかけられ、ヘイっと威勢よく返事をして籠を下ろす。あっ、と声が出そうになった。そのご婦人はまさにオカメの上様その人に違いなかった。真っ白い肌、下ぶくれの顔、紅の差した唇、垂れ下がった両目。でも、なんだろう、おれっち、この人の顔を見ていると、心も体も軽くなるような……。「あの、何か?」しまった、オカメの上様に不審がられちまった。相方が必死に目でおれっちに合図を送っていたのにも気づかずに、オカメの上様の顔を凝視しちまったらしい。こりゃあとんでもない失礼をつかまつって……。ところが、ご婦人はこう言ったんだ。「わたくしの顔をまじまじと見つめた方は何年ぶりかしら。笑ってもいいのですよ」と。「笑うなんてとんでもねえ! あなた様のお顔はそりゃあほかにはねえ顔かもしれねえが、 おれっちは不思議に気持ちが落ち着いたんだ。見つめちまって失礼でごぜえやしたが、笑うなんて、そんなことはとんでもねえ」と。そんなことがご縁で、今じゃあ二人は夫婦、山の手のおれっちの屋敷には、下ぶくれた顔のめんこい娘が三人と、おれっちによく似た口のひょろまがった倅が五人も元気よく遊び回っている、ってえわけだよ。
-了-
(一行即興文:お題「あい うえ おか」)
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カヅチという名の青白い女は、ぼくを置いて去ってしまうつもりらしい。彼女の愛馬が先日人間に追われて逃走したために、それを追わなくてはならないのだそうだ。二人を分かつ夜がうらめしい。西の空に満月が傾きかけた、ビルも人も風さえも眠る静かな時。いっそ誰かに邪魔されたなら、彼女を見送る寂しさとも無縁でいられただろうに。深夜のルミネの最上部に、カヅチとぼくは忍び込む。大きな電飾看板に手を当てる彼女にぼくは言う。「もう会えないの?」なんだかおかしい。朝の学校の屋上で彼女を見かけたときには「また会ったね」と嘘を言って彼女を笑わせたのに、今は同じような言葉を真実の心から言っている。「ふふ、君やっぱりおもしろい」ぼくに横顔だけを見せたまま彼女は言った。電飾から電気を両手で引き出しているように見えた。青白い光が彼女を包み始める。「もう行くね。スレイプニルは足が速いから、時間がないの」「うん、わかってる」冬のリゲルよりも青白くなった彼女は透明の体でこちらを向く。瞳だけが深く光をとらえ吐き出して煌めいていた。射すくめられ、ぼくは何を言っていいのかわからなかった。彼女の唇が一瞬、ぼくの体温をさらっていった。「この世界が終わる頃、必ず迎えにくるよ」彼女はそう言ったのだと思うけれど、ぼくの意識は自分の唇に残る余韻に奪われていたので、定かではない。でもきっと会えるのだとぼくは思った。カヅチに会ったらこう言おう、「また会ったね」。今度は真実の心で。
-了-
(一行即興文:お題「すく そだ つよ」)
※お話としては、『バンニップ』の続きでもあります。このあと『サラマンダー』につながっている、はず(^^;
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笑う猿が近所にいる。いつも通行人を指さしてはウワッハハハハハと野太い声で笑うんだ。その声が太った中年のおっさんそのものなので、初めての人はみんなびっくりすると同時に背筋がぞぞっとする。私はバレーの試合が終わるといつも笑う猿に会いに行く。だいたい月に一度は行くだろうか。不良と呼ばれ続けた私が高校に入れたのも不自然に伸び続けた背の高さと、人並みよりはあるジャンプ力でバレーという特技を身につけることができたからで、つまりそれは私の親の遺伝のおかげであり、私の功績じゃあない。勝っても、負けても私は自己嫌悪に陥る。それを猿に笑い飛ばしてもらうんだ。ウワッハハハハハ、負けたのか。ウワッハハハハハ、親からもらった能力で勝ちを盗んできたのか。笑われるとすっきりする。そうだよ、私はこの背だけでやってきたんだよ、何が悪い。開き直って、猿を逆に睨み付けてやるんだ。煙草の煙をぷーっと吹き付けてやると、猿はゴホッゴホッとむせて涙を流していた。笑った猿がもう泣いた。私がアハハハハと笑うと、猿もウワッハハハハハと笑った。
-了-
(一行即興文:お題「つき わらう じゃん」)
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荒ぶる海を眼下に見据えて、オレの後悔が胸の中で急成長を遂げ始めた。寒中水泳耐久レース、なぜオレが、どうしてこんなところに? しかもこの格好、ふんどし一丁、観客は県内から数千人、出場者は百人強。寒い、寒いよ、寒いですよ、助けて! 逃げ出しそうになるのをかろうじて食い止めているのは、片思いのあの子の視線を観客の中に感じるからだった。声援の中でもオレは彼女の声だけは聞き分けられる。「がんばってー」ほら、あの声。胸の炎が燃え上がり、寒さなんてどこへやら。「がんばってー、前島くんー、やだ、言っちゃった」最後の小さな恥じらいの声まで、オレの聴覚はばっちりとらえていた。けれど、問題は、オレの名字が林だってことだ。神様、そりゃないよ。オレの体は眼下の海に真っ逆さまに落ちるよりなかった。飛び込む前にしょっぱい水が鼻の奥に広がっていた。
-了-
(一行即興文:お題「さま・たい・ぶる」)
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私がもしロボットだったら、このような苦しみを味わわずに済んだのだろう。煙草に火をつけると目の前の女の顔を見つめた。「選んでよ。私とミナとどっちをとるのか!」ヒステリックな問い。私はこう答えるしかない。「さあな」と。「冷たい人ね、私たちの気持ちをもてあそんで、さぞ嬉しいでしょう」言い捨てると、女は体育館裏から去っていった。「あのなあ、わたしゃノーマルなんだ、男が好きなんだよ。イッコばかり留年してるからって、なんでカッコいいとかカゲがあるとか言われて同級生にモテなくちゃならないんだ?」私が自分の機械ならぬ身の苦労の多さに、ふうっと息をつくと、大きな灰色の不満が空に吸い込まれていった。
-了-
(一行即興文:お題「ぞう あな しろ」)
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ここ一年で我が特殊部隊インビンシブルの出動回数は文字通り桁違いに増えた。星霊学者たちは何者かがゲートを開いた影響だと言うが、具体的な対応策は何一つ提示しない。私は彼らは穴蔵での文献漁り以外には無能者の集団だと確信するに至った。ここ数日、世界中の航空機を火の玉に変えている超自然現象にも、彼らがやった仕事といえばサラマンダーという名前を与えただけ。結局、現場がどうにかしなければならないのだ。今日は高校生の息子の進路相談の予定日だったが、非常事態とあっては仕方なく、スカイハイと呼ばれている一人乗り成層圏航行機械で編隊を組織して、サラマンダー撃退に向かう。まったく、非常事態が日常になってしまった、と口の中でつぶやいた言葉は、腹心の部下にも聞かれぬまま胃袋に落ちて溶けた。サラマンダーは火の竜をイメージさせる名前だが、実体はまるで違う。炎と稲妻の混合体のような、球体の周りに高エネルギーの腕を何本も走らせている、非常にとらえどこのない高速移動体だった。サラマンダーにとってはスカイハイの誇る十音速の移動速度でさえ、亀の歩みに等しいだろう。奴は部下のスカイハイ一機にまとわりつくと、エンジンを高熱で蒸発させてしまった。爆発する機体に私は南無三とつぶやくと、サラマンダーを引きつけるべく機首を向けた。武器は一切命中しない。正確には高速すぎてロックオンさえもできないのだ。いっそ宇宙空間にヤツごと吸い出されてやろうかと思った。しかし、息子の顔が一瞬脳裏をよぎり、その考えを捨てさせた。あいつは、先日失恋したと言っていた。手の届かないところに両思いの少女が去っていってしまったのだと。別れが立て続けになっては、あいつが気の毒じゃないか。私たちはサラマンダーを引きつけては、仲間が撃つ命中すれすれの量子ビームで牽制して引きはがすという動作を繰り返していた。万に一つもビームは命中しないと知っていながら。その時、高エネルギーの物体が戦場へと接近してきたのをレーダーが捕らえた。眼下の青い海と白い雲を引き裂いて、もうもうと炎を黒煙を撒き散らしながら鉄塊が暴威となって浮上してくるのが目視できた。私はすぐに地上と交信し、それが原潜から射出された大陸間弾道ミサイルだと知った。人類の罪と業の象徴。そんなものが今の我々の救いの神か。核の悪魔は、赤く燃えながら我々の戦場を垂直上昇していく。サラマンダーは格好の餌食とばかりに食らいつき、そのまま、やがて世界の上半分を染めている暗黒の中に吸われていった。数十秒後に起きた爆発で、地球は第二の太陽に照らされて輝き、やがて沈黙を取り戻した。「よくやってくれたな、お前達が粘り強くデータを収集してくれたおかげで、ヤツの特性を逆利用してやることができたわ」星霊学の世界権威とかいう憎らしい顔がモニターに映し出されて、どうやら褒め言葉を言っているらしかった。歯のほとんど抜けた口を開き、ミズカビのように頭皮にまとわりついた白髪揺らして笑っている。彼の目の下には疲労のため隈が色濃く浮き出ていた。私は無言で頭を下げ、部下に地上への帰還命令を発した。
-了-
(一行即興:お題は「かい、そう、さら」 )
※すでに一行と言うのもおこがましすぎ、チャットに貼り付けるのは迷惑、ということでお蔵入りになりました~(^^;
ここって蔵だったんだなあ(笑)。
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私たち人類が隆盛を誇っていられるのも今が間氷期であるために地球全体が比較的温暖さを保っているおかげであることは、ご存じだろうか。一つ前の氷期の頃にはマンモスやオオツノジカがいて、それらは化石となり、時には氷河の中に埋葬されて現代に残っている。私が南極大陸の地下200メートルへの探検の末に見つけた世紀の発見は、超古代の大トカゲどもの氷漬け、数百体だった。数億年の歳月を、ヤツらは氷の棺桶の中で静かに過ごしてきた。これまでまったくわからなかった体表皮の様子、そして予想通りその多くが羽毛を生やして鳥類への進化を裏付けている様を、世界で初めてこの目で確認したのは、私だったのだ。なんと喜ばしいこと。クレバスの底を探検するという難業を私と共に成し遂げた樺太犬のシロとゴロも喜んでいる。褒美に手近に埋まっていた大トカゲの肉片を切り取ってやったら、「もう一個くれ」と言いたいのか、二頭揃ってワンワンと吠えてうるさかった。そのとき私は気付いていなかったのだ、自分の背後で大きな影が蠢いて、その爪牙を光らせて迫ってきていたのを。
-了-
(一行即興文:お題「こく、とか、おり」)
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2004.06.16
「今さら景品はありません、理由は予算不足、なんて言ったら殺されるだろうね、信濃くん」「そうですわね。マニフェストに明示してしまった以上は、文化祭のアンケート一位の景品は確保しないといけませんね、古藤さん」「私は古藤で、お父さんではないよ」「ちゃんとそう言いましたわ」「しかし生徒会役員なんて楽しいと思っていたら当てが外れたな。楽しいどころかむしろ苦労ばかり」「そ~うで~すね~え」「あら、マンドラゴラ、起きていたんですの」「はい~、さきほど起きました~」「そうだ、信濃くん、景品はマンドラゴラにしよう」「ああ、いい考えですわ」「な~んのことで~すか~?」「そうだな、これが不死身の秘薬、マンドラゴラ。こんなキャッチフレーズはどうだ」「いいですわ、さすが古藤さん」話がまとまりかけたとき、「あの~、話は最初から聞きましたけど~、ワタシを景品にしたら、全部バラしますけど~」マンゴラゴラのいかにも根菜類という鋭い指摘で、生徒会長・副会長の悪巧みは水泡に帰し、彼ら自身が『喫茶・マンゴラゴラのいる生徒会』を運営して景品の購入費用を捻出することになったのだった。
-了-
(一行即興文:お題は「フジ ロク フェス」)
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「ミジンコチップ」と書かれた有機フードをぼくらは素早く口に詰め込んだ。たしか地球では極めてポピュラーな食べ物だったと聞いている。けれどもこの狭い宇宙船の中では有機物、それも動物性の食物というのは極めて希少価値の高いものだった。ぼくらと、ぼくらの母なる液体である水を満杯に搭載した宇宙船は、氷を溶かすための熱核炉を積んで今日も冥王星へと向かうのだ。冥王星の氷を溶かせば、第二の地球、母なる星を作り出せる。そうなれば、我ら魚類の未来は安泰なのだから。
-了-
(一行即興文:お題「カチ コチ クチ」)
※おまけ「カチ コチ クチ」で。
ポケモン大好きの夫を説得するのは、意外にも簡単だった。「ピカチュウ、ニコチン、嫌いでチュウ~」。私の得意技、大谷育江さんの物真似で迫ると、あっさり禁煙を了承したのだ。ふ、クチほどにもないピカチュウ。(おわり)
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いくらおかわり無料の喫茶店だからといって、四杯目のコーヒーのおかわりをウェイトレスに頼むのは避けたい。って思っていたら、彼氏クンのほうが無遠慮に「すいませーん、おかわりくださーい」と大声をあげた。 オウ、ミスターマイペース! でも不思議と安心するんだよね、こんな万年日本晴れな思考回路の人と一緒にいると。
-了-
(一行即興文:お題「たい、まい、はい」)
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「なあなあ、私の作った春巻き、食べてくれるん?」聡子がまたオレを料理の実験台にしようとこんなことを言ってきた。「やだよ」「そんな冷たいこと言わないで。なあなあ今日覚えたてなんだから」「なあなあうっせ」言ってから、しまったと思った。聡子の目にじわっと浮かんできた光の粒にオレは気付いた。「わかった、わかったよ!」はあ~、今日も正露丸、飲まなくちゃ。
-了-
(一行即興文:お題は「はる、なつ、あき」)
※『金魚』の二人が登場です~(^^;
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一年ぶりのクラシックコンサートでのデートだっていうのに、間奏のわずかな時間のうちに早くもでっかくいびきをかいて眠り始めた彼を叩き起こそうとして、私は彼の唇が何事かをつぶやいているのに気付いた。寝言らしい。真剣にその動きを読む。「愛してる、愛してる、愛してる……」。ばかばかばかばか、もう、ばか! 彼の胸に顔をうずめて恥ずかしがる私は、周囲の人たちが迷惑そうに見つめていたのにも気付かないのだった。
-了-
(一行即興:お題「よむ かく かんそう」)
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別れの時は突然やってくる。この男を選んだのは、ほっそりしていながらも鋭い二本の腕に惹かれたから。ずっと前から目をつけていた。でも今は目の前の男よりも、お腹の子どもたちが私には愛おしく思えて仕方がなかった。さようなら、愛しい人。私は産卵前の最後の食事を終えると、口の端を両腕の鎌できれいに拭った。私はカマキリ。
-了-
(一行即興文:お題は「カラ カレ カマ」(だったかな……(^^;))
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ほんの二滴だけ加えた檸檬の汁が、琥珀とルビーの中間色の空間に浸透していく。私は大好きな紅茶を、ついつい冷めるまで眺めてしまう。檸檬によって変色した淡い熱水が対流するにしたがってフラクタルな立体芸術を見せてくれるものだから、私は今日もそれを眺め続けて三十分も学生食堂で過ごしてしまった。「よく飽きないね、江西」と呼びかける人が向かいの席に一人いるけれど、彼もそんな私を眺め続けてよくもまあ飽きないもんだ。
-了-
(一行即興文:「とり とる たれ」)
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お客さん、その一品を注文してくれるとは、お目が高い。ウチの広東麺はそこいらのとは仕入れから違うよ。なんたって中国の問屋から直接仕入れた野菜をたっぷり使っているんだからね。料理は素材と言いましてね、艱難辛苦、臥薪嘗胆乗り越えて、吟味に吟味を重ねた捲土重来の一品だぁね。……え、なんですか、ヘイ、ここに入っている黒いハネの虫も自慢の素材なのかって……ええ、まあ、何ですか、そこが唯一国産品なんでして、ヘイ。
-了-
(一行即興文:お題「なん かん とん」)
※落語のような感じを出そうと思いましたけれど、うまくかみ合ってないような気もします(^^;
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2004.06.14
さすがは音に聞こえし妖刀村正無双の切れ味、江戸を騒がす放火の下手人を、首から上を召し上げたる感触、豆腐に包丁を入れるよりも軽し。我が腰に提がりし威力あらば、夷狄との和睦など必要のないこと。ハリスめの素ッ首掻き斬りて日の本の国に再び黎明をもたらすのが我が望み。だが、急がねば。急いで使命を果たさねば、私の心が正気を保っておられん。……急いで誰かの首を掻かねば、気が済まぬ……ぞ……。「寒いよ……」薄い壁一枚隔てた隣室で寝ていた十になる娘の寝言が聞こえた。このような縷々(るる)の長屋に母もおらず、はや何年、あまりに不憫なる我が娘よ。私は音もなく立ち上がり、蟻の足音もかくやの静けさで障子を開き足音ひそかに身をすべらせて隣室へ向かう。娘を哀れに思えばこそ、このようにしか生きられぬ父を許し賜え。日の本の明日よりも、娘の命を選ぶべく、私は村正をがっきと顎でくわえ込み、己の両の腕を一文字に薙いで払った。痛みもないまま畳の上に二枚の羽根のように落ちる我が腕、その向こうに見える最愛の寝顔。この父が死ぬまで村正を手放さぬ。誰にも渡さず、人を斬る欲望を抱えたままこの肉体を妖刀めの牢獄とし、鎖縛しよう。
(一行即興文:お題は「さむ いよ ぼく」)
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2004.06.13
ワタシはその頃は百獣の王でジャングルの覇者とも言われるライオンをやっており、サーカスで毎日火の輪くぐりを披露しては、なんだライオンのくせにもっと芸のある真似ができないのかとか、たてがみにリングから飛び火して大火事になったらおもしろいのにとか、さんざんに言われていたから、その男が来たときも「誰だ」とけだるく答え、「人間ですよ、あなた、人間は気楽でいい、火の輪もくぐらずサーカスをおもしろおかしく見るだけだなんて、思っていたでしょう、だからあなたと私の人生を取り替えてあげようと思うのですが、いかがです?」などと言われたときには、できるもんならやってみろと哄笑混じりに言ったものだったものの、今にして思うと、人間として生き始めてからの毎日、この書いても書いても終わらない書類の山、山、山、そしてミスひとつ許されない上司の監視、悪くもないのに顧客に頭をぺこぺこ下げる屈辱の繰り返し、揺り返し、もしかしたらこの人生はサーカスの火の輪くぐりと全く同じじゃないだろうか、いや、その日ともかくも仕事を終えれば安らぎのねぐらが保証されているサーカスのなんと居心地のよかったことか、とさえ思えてきて、そう思い続けているにも関わらず、あれから何度サーカスを訪れてライオンの檻の前に立っても、ライオンは眠気まじりにあくびを繰り返すばかりで、少しもワタシの人生を返してくれそうもないのだった。
(一行即興文:お題「じゃん・だら・りん」)
※ある方の地方での方言だそうです。「りん」ってどういう風に使うんだろう?
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機体が分解されるかと思うほどの衝撃が、宇宙空間を飛行する愛機に襲いかかってきた。敵である異次元生命体がまだひとつ生き残っていたらしい。愛機に攻撃を加えてきたそいつに一片の敬意を払いつつ、私はゆっくりとトリガーを引いた。敵の姿はかき消えて、もとの漆黒の宇宙空間が広がっていた。愛機は量子ビーム発射の衝撃に耐えきれなかったらしく、しきりにぶんぶんという唸りをあげている。どうやら機体を維持できず、ほどなくバラバラになるらしい。私は祈るような静寂の中、その瞬間を待った。機体の振動が細かくなり続け、周波数が高まっていく。やがてその最高潮に達したとき。私は愛機が機体の分子結合を再構成し終えたことを知った。地球最後の宇宙戦闘機、我が愛機の名はフェニックス、不死鳥という。
(一行即興文:お題「ぶん しょう かき」)
※スペオペ風に挑戦して玉砕しました~、あははは(^^;
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ぼくの目の前にはたれ込める暗雲、そして稲妻があった。ぼくの父たるダイダロスはもう地上に帰っただろうか。ぼくのロウで固めた翼はしなやかに、対流する大気を薙いで羽ばたき、不吉な暗雲をあっという間に眼下に押しやってしまう。ああ、まぶしい太陽が見える。あそこにたどり着いたら、父へメッセージを送ろう。大地に大きな声で話しかけてみよう。ぼくの声は降り注ぐ光に乗って、きっと届くから――
(一行即興文:お題「たら たる たれ」)
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この鍋、なんだかちょっとおいしくない、と感じるオレだったが、何度見ても大好物の牛モツもしらたきも豆腐もかまぼこもネギも白菜も入った完璧な鍋、バイトの給料が出た日でもなけりゃ食べられないごちそうだった。ふと視線を上げたオレは気づいた。フハーフハーと鼻息荒くしている愛犬ジョシュアが鍋の上に頭を半分近く乗り出しており、彼の口の端からは大量のよだれが鍋にふんだんに注ぎ込まれていたのを。あのさ、お前にはさあ、バイト代の大半を注ぎ込んで高級ドッグフード半生タイプ食物繊維入りビタミン調整スペシャルを買ってやってるだろうに、それなのに、それなのに……オレの涙の混じった鍋は、塩味が効いていた。ような気がした。
-了-
(一行即興文:お題は「なべ かま ハーフ」)
※ハーフを褒めて(?)いただきました~
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ほどよく冷房が効いた朝の通学電車に、いたいた、今朝もサトミはいつもの席できれいな黒髪をうなだれてい座っている。私はいつも通り、寝ているサトミの横に腰掛け、聞いているんだかいないんだかわからないこの子に話しかける。「あのさあ、クラスの桔梗子ったら、またオトコ取り替えたんだって、聞いた? あたしも今朝メールで聞いたところなんだけど。やるね、あの子も。いっつもオトコの視線意識してミニスカートからフトモモをぷりぷりのぞかせてさあ、髪の毛グリーンの上に、きっつーいコスメ目立ちすぎだよね。いやはや、どんなオトコがあの子を気に入るんだか。ってアタシがもてないからってひがんでんじゃないのよ、そこんとこわかってよ」そう言って、隣のサトミの顔をのぞき込む。あれ、この人、サトミじゃない。まさか。「情報通のトロミさん、その桔梗子が髪を黒く染め直したって情報は、聞いてたのかい?」黒髪の下から、桔梗子その人が私を睨み付けていた。「は、は、ハツミミですぅぅ~」ヘビに睨まれたカエルのように私は硬直した。
-了-
(一行即興文:お題「ミミ メメ モモ」)
※下のホラ爺の話の前に作ったものの、気に入らずにお蔵入りさせていました(^^;
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ホラ爺が「でっけえメメズを餌にしてな、この溜池でコイを釣ってたらな、すんげえモンがかかったことがあったんだぜなあ、『何が』かかったかはよぉ、言えねぇけどよぉ」なんて言うのはどうせいつものホラ話だろうと思ったんだけどさ、俺はこの時だけは第六感って言うのか、霊感、山勘、働いて、ミミズを釣り糸にぶらさげて、溜池でヒザに頭を載っけた姿勢で午前中を過ごしてみたってわけ。夢の中で俺はキショーヨホーシだかキショーケーホーだか知らないけど、なんだかエライ人を釣り上げたりしてたけど、ふと右手を引かれて夢から覚めたら、ヒザじゃなくてフトモモに頭を挟み込んだすごい姿勢になっていて、眠りながらもしっかり握っていた釣り竿からは、とんでもなく強いヒキが右手に伝わってきてた。ホラ爺は年に一度しかホントのことを言わないという、別名ヒコボジイ@七夕伝説と呼ばれていたけど、俺はまさにその当たりを引いたぜ、と確信した。十数分も格闘してエモノも疲れ果てたようで、ようやく岸辺近くに寄ってきた。六十センチ……いや八十はある……。その時、俺は悲鳴を上げて、岸から飛び退いた。だってそのサカナには、顔の横にとんでもないものがついていたんだから。それは人間そっくりの、二つのミミだった。
-了-
(一行即興文:お題「ミミ メメ モモ」)
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2004.06.12
私の左手の薬指に、ささくれができた。薄い透明な表皮が、爪の付け根から一ミリにも満たない細さでつつ、と裂けている。ち、ち、というかすかすぎるパルスが私の脊髄を上ってくる。気になるかならないか、ぎりぎりの弱々しい信号に、私は少しいらいらする。授業中も、演劇部の練習中も、メールを打っている間も、ちく、ちく、と思い出しては私にメッセージを送ってくるのだ。部活の終わりに、水道でざんぶざんぶと顔を洗って首筋まできれいに汗を拭う。いつもの爽快感に、ウィルスが侵入するようなじく、じく、という信号が送られてきた。タオルごしにぎゅっと握ってみた。どくん。どくん。どくん。毛細血管に赤血球が充満して、ささくれの合図は少しだけ自己主張の度合いを増した。うん、そうだね、このくらいなら私たちは同居できるね。小さな声で話しかけた。誰にも聞こえないと思っていたけれど、隣の蛇口を使って顔を洗っていた三年の相原先輩が、きょとんとした顔でこちらを見ていた。
-了-
(一行即興文:お題は「くる、くれ、くん」)
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我々特務班が派遣された理由は明快で、新月の晩の丑三つ時に目撃された生物をどうしても捕獲したいという内閣調査室の要請が入ったからだった。新宿のビル群の間を飛行する翼を持った馬に似た生命体を、我々はバンニップと仮称で呼び、今まさに五人の特務レンジャーで構成された部隊四つを動員して取り囲むことに成功したところだ。敷島重工特製のロケットブースターで高速飛行する部下のレンジャーたちが、ビルの隙間の空間を逃走するバンニップを追いつめる。「バインド!」私の合図と同時に、単分子繊維ネットが秒速二百メートルの速度でバンニップの予測行動範囲空間だけを、周りから完全に遮蔽する。もう逃れられまい。私はその時自己の無謬を信じんばかりの満足感に捕らわれていた。だがその時、標的の額の突起がぐるりと反転し、第三の目が現れた。それと同時にバンニップの体は青白く光って輪郭がおぼろになるが早いか、目には見えないはずの単分子繊維ネットをすり抜けて、ビルの窓ガラスに吸い込まれて消えた。我々にできたのは、窓ガラスに映る北斗七星の七つ星を階段のように駆け上がっていく、炎のように青白く燃えるバンニップの後ろ姿を見送ることだけだった。
-了-
(※一行即興文:お題は「じこ したい みっつ」(カタカナ漢字表記可)
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2004.06.11
「コーチ、俺たち花園に行きたいです!」「そうか、だがな、ラグビーの世界は甘くないんだ。流血、たんこぶ、骨折もつきものの、厳しい世界だぞ」「それでも、俺たち……」「そうか。たしかにお前たちの根性があればどんな強敵にも負けないだろう」「じゃ、じゃあ俺たちを試合に出してくれるんですね、コーチ!」「いやだめだ! じつはな、今まで黙っていたが、高校ラグビーには、女子チームの参加枠はないんだ、すまん、お前たち、耐えてくれ!」
-了-
(一行即興文:お題は「たん もつ きも」)
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やめたほうがいいよと言われたのに、私がデートで昼食に選んだのは、トロロとモモのチーズパイというメニューだった。一口食べるなり、私の口のラッパがプーともブーともつかない音で鳴り、気がつくと目の前に座った彼氏の顔が薄桃色の混じった黄ばみでまだらになっていた。ごめん、彼氏クン。今日ばかりは、デート代は全額私のおごりになった。そのあと、私が彼の服を持ち帰って洗うことになったけれど、ふふ、こんな風にこの人の洗濯物をするのもいいなって思ってた。こんなときにも文句の一つも言わない彼、ちょっと惚れ直したぞ。
-了-
(一行即興文:お題は「トロ モモ ロト」(平仮名可))
※チャットでゲームネタで盛り上がったので、ゲーム系のお題をおづねより出題しました~(^^;
とりにくさんの作品もどこかで公開されるといいなあ、いいなあ、いいなあ~~~(笑)←催促?
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2004.06.10
ぼくたち兄弟は、砂の魔女の城にたどり着き、謁見の間で魔女その人と対面していた。「願い事があると申すか。して、その代償には何をよこす? わらわはそなたらの命以外に所望するものは持たぬ」冷たい石造りの広間に響く冷たい声に答えて、弟が言った。「いいえ、私たちはあなたとあるものを交換したいだけです」。ぼくがそのあとを受ける。「あなたはこの砂の城を脅かす雨を、私たちに。私たちは、炎熱の山脈を吹き降りてきた烈風と乾気をあなたに」。 すると魔女は哄笑して、「おもしろい兄弟じゃ。よかろう、わらわの魔力でその交換、きっと受けてやろう」そして魔女は、ブルーの瞳でぼくたち二人に射るような視線を浴びせて微動だにしない。ぼくはずっと前から決めていたことを言う。「私たちには魔力がありませんから、その代わりに私の命を……」魔女が唇だけを動かして、笑ったように見えた。そのとき、「兄さん!」弟が両手を広げて前に飛び出し、魔女の視線からぼくを隠すように立ちはだかった。魔女は笑いをひっこめ、高座からつまらなそうにぼくたちを見下ろしていたが、指をひとふりした。ぼくたちは気づくと、故郷からそう離れていない草原に立っていた。「つまらない余興をやめておくれ。目障りな童どもじゃ、お前たちの顔をふたたび見ずにすむことがわらわの望む代価じゃ」どこからともなく、魔女の声が聞こえた。ぼくたちは手を取り合い、はるかな旅の空を見つめた。いつまでも見つめていた。
-了-
(一行即興文:お題は「たび いえ すな」(漢字、カタカナ可))
長いので悪い例です(^^; チャットより手を加えました。
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「立てよ、国民!」心地よい独裁者のアジテーションが私の頭で響き渡る。そうだ、みんな立て、大地に立て。私は両手を振り上げて演説に応えるのだ。「ジーク……」ごつん。はれれ? 手が壁にぶつかった? 私はゲームをしていていつのまにか寝てしまったらしい。眠りながらゲームの続き、よくあるよね?
-了-
(一行即興文:「民、眠、みん」)
※この日は数本の一行即興をチャット相手の方と作ってみました。
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今日、最強の小説が書けたんだぜ、仲間と競争しつつも協力し合ってさ、嘘だと思ったらそこのパソコンに表示してあるから見てみろよ、あっ、コンセントに足が引っかかったぜ、しまった消えちまったぜ……また今度書けたら見せてやるからさ……え、なんだよ、怒ってどこ行くんだよ、オイ、待てったら!
-了-
(三語一行即興文:お題は「協・競・今日」)
じつは、下記のものを書きましたが、小説になってないので、書き直したのです(^^;
ヤルタ協定において今日の国家間の過当競争を予見できたはずもなく、歴史家は概ね、件の決定には好意的な見方をしているようだ。
-了-
(三語一行即興文:お題は「協・競・今日」)
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憎い憎いカッコウを捕らえるべく、オレは柿の木にとりもちを塗り、ヤツの安息の日々に終止符を打つ作戦を立てたものの、所詮オレはモズ、子どもの敵を取ろうにも、とりもちを手に入れることはできない相談だった。
-了-
※カッコウは、モズなどほかの鳥の巣に卵を産み付け、もともとあったその鳥の卵を落としてしまい、自分の雛を相手に育てさせます。ひどいですね(^^; そういう背景でお読みいただければ幸いです。あ、注釈長い(笑)。
(一行即興文:チャットにてお題は「とり・柿・安息」)
※お題にペンネームを使われた心当たりをお持ちの方々は、どうかお許しください(^^; 出題もおづねで、ある方と競作のように書いてみました。すみません~。
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