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2006.08.13

:『金剛八つ』

 空薬莢を逆さに立てた。
 元は畑だった場所に足を運んで、焼夷弾で焼けた土を詰めた。
 種を一粒、そっと置いた。
 林檎の種。
 ぼくは動物園がとても好きだったけれど、大好きなライオンもゴリラもゾウも、今はもうみないなくなってしまった。動物がぼくよりも大好きだった妹も、いなくなってしまった。
 戦争のせいだった。
 妹の好物で、動物たちの好物でもあった林檎が芽生えたら、焼けてしまって黒い炭の山になってしまったぼくの家の庭に植えよう。八月十五日が来るたびに、ぼくはその木を見て思い出そう。大人になっても、老人になっても、きっと思い出そう。
 ぼくたちは悪いお手本の真似をしすぎた。ぼくたちは慎みを忘れていた。だから、ぼくたちは、たくさんの過ちを海の外で犯し、そして数え切れないほどの大切なものを、失った。そのことは夢でも幻でもなかったんだって。それから、ぼくの妹は、たしかにいたんだって。

 林檎はきっと育つだろう。実をつけるだろう。長い月日がかかるだろうけど。必ず。
 ぼくは掌で水を一杯すくう。
 指の先から雫を垂らす。
 
 ひとつ、ふたつ、みっつ――

 妹の年を数えながら。
 八粒の金剛石が、過ちに縁取られた小さな大地にこぼれて跳ねる。


-了-


(※三語即興文投稿作品【ゴリラ、水を一杯、空薬莢(からやっきょう)】)
(※いろいろと甘いところが多いのですけれど……でも言わぬが花、と思って言い訳しないでおきます(^^;)
 

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