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2006.07.07

『紛い』(二枚)

 携帯電話を解約して、古道具屋で黒電話を買ってきたのは、一昨日のこと。
「大浴場だと、是非ピンク電話がいいですね」そんな軽口を叩いて、さもさも好事家という体で買ってきた。
 畳敷きの四畳半にちゃぶ台を置いて、そこに中古のポータブル・プラネタリウムを飾ってみる。幼い息子と娘が「なにこれ、動かしてよパパ」と歓声を挙げるところを想像する。
 こんな行為は感傷に過ぎないのだ。私にはわかっている。
 だが、感傷に浸らずにはいられないことが、もしかしたら私が人間であることの証かもしれぬ。
 これは妻の形見、と思って置いた部屋の片隅の三面鏡を開く。
 錆び付いて右側しか開かないが、修理をせずにそのままにしてある。
 そのほうが、どことなく人間らしい気がして。
 機械も、心だけは人間に近づける気がして。
 鏡に映る人型ロボットが、モーター音を立てながら眼球をぐりぐり動かす。わっぱのような顎がギィっと開いて鍵盤じみた歯が顔を覗かせる。
 ユーモラスな、間の抜けた顔のほうが、主人たちをリラックスさせるという理由で、このような表情に作られた。その張り付いた笑顔の仮面が、私を悲しくさせる。鋼の胸に痛みが走る。
 人間に、なりたい。
 小さくつぶやいてみた。
 向こうの世界からは、人間紛いの醜悪な顔が飽きもせず同じ表情で笑いかえしていた。
 
 
-了-
 
 
(※三語即興文『人型』『黒電話』『プラネタリウム』。課題『切ないお話にすること』)

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