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2006.05.31

『暗海青光』(二枚)

 今は遠くにいるあの人のアロハシャツをテーブルクロス代わりにしてみた。テラスからは夜の海が見える。パイナップルとマンゴーの盛り合わせに手を伸ばす。島では果物が安いから、昼間も夜も、私たちのお供は炭酸水とこれらのトロピカルな色、色、色。
 潮が満ちる頃、海が淡く発光しはじめる。夜光虫が群れて、青い月に対抗するかのように、海原を天の原と見紛わせる意図を持っているかのように、水の肌の下を彩る。

 暗黒の海に青い光。
 私はこれが嫌い。
 一ヶ月後に婚礼を迎えるはずだった私の夫は、漁師の稼ぎがなくなり、ニッポンへ出稼ぎに行ってしまった。エビの缶詰を作る工場ができてから海の富栄養化が進んだせいさ、と言い残したけど、私にはむずかしいことはよくわからない。ただ、夜光虫が出ると魚が獲れない。私の結婚も幻になってしまう。ただそれだけが現実だった。
 昨日、私の大事な人から手紙が届いた。半年後の衣替えの時期までは新しい服もいらないから、お金は宿代と食事代以外はかからないよ、と書かれていた。半年経ってもあの人は帰ってこない。私は手紙をすぐに箱にしまいこんだ。
 夜光虫の海を見ようと、観光客は引きも切らない。南海の幻想的な景色だと、訪れる人はみな大喜びだと言う。
 私は、木の香りのひっそり匂う小さな家の小さなテラスで、涙を流す。今夜も。

 -了-
 
 
(※三語即興文投稿作品「衣替え」「アロハシャツ」「夜光虫」、「食事風景を入れる」)

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Comments

 緑川さんに女性らしい柔らかさが感じられると言っていただけて安心いたしました~(^^;
 エビの缶詰は、じつはエビの加工工場に直さなくては……と思っていたところでのご指摘です。エビって缶詰になりましたっけ(^^; なんとなく蟹工船などのイメージから缶詰とキーボード上で指が滑った感じです。ペット用かどうかまでは想定しておりませんが、生活になくてはならないものとは、きっと違うでしょうね。その意図が伝わったとしたら、報われる思いです。
 とは申せ、やはり社会問題などを描くには筆の力も、勉強も足りず、この作品では主人公の心情だけにスポットライトを当てられればよいとも考えております。
 テーブルクロスにしたところを褒められて、じつはとても嬉しい~(笑)。あとの二カ所も、自分でも気に入っているところだったりするのです。

 写真は、デジカメの大容量に任せてあちこちで撮っております。技術も知識もまるでないのですけれど(^^; オフ会とかで笑われた(呆れられた!?)ことも~。でもおいしそうなものを見ると、せめて記憶のよすがに画像を保存したくなるのですよ! そういう心境でしょうか。あ、でも最近おいしいものを食べていない~。
私の言う「おいしいもの」はぜんぜん安いのばかりですけれど(^^; 庶民だから。

Posted by: おづね・れお | 2006.06.02 at 09:00 PM

 何度も失礼します~。
 先日は丁寧な感想返しをありがとうございました。ご質問も、実は嬉しかったです。

 ちょっと言い足りてなかったような気がするので補足します。おづねさんの作品に、「もっと深められる」云々と申しましたが、これは、浅いとか薄いという批判ではなく、発想が魅力的なので、もっと先を期待してしまうという意味でした。

 さて、お嫌でなければ感想いきます。

>エビの缶詰
 私の勘違いかもしれないのですが、もしかしてこのエビの缶詰ってペット用で、つまり人の生存に関る様な必然性がないもので、環境が破壊されている→私達の悲劇を産んでいる……ということでしょうか?
 であれば、御作の前段と後段の落差が一層際立つと思うのですが。

>アロハシャツをテーブルクロス代わりに
>水の肌の下を彩る
>木の香りのひっそり匂う
 こういう皮膚感覚、いいですね。
 女性らしい柔らかさを感じました。

 以上、簡単ではありますが。
 あ、あと実はひそかにここの写真が楽しみだったりします。上手いなあと、お世辞じゃなくて(^^

Posted by: 緑川 | 2006.06.02 at 08:40 PM

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