« おづね・れみ | Main | ユッケをいただきました »

2005.02.03

『気ぃつかいの携帯』(三枚)

 いいよいいよと断っているのに、私の携帯は、気ぃつかいだ。
 勝手にマナーモードになってくれるし、着信音のボリュームも状況に応じて上げ下げしてくれる。なんと言っても極めつけは、彼氏が近くにいることを察知するとウェディング・マーチを流してくれることだ。ウェディングなんて、早いっつーのー。気ぃつかいの携帯クンだから、ほかの人には聞こえないくらいの微妙な音量なんだけどさ、それはそれとしても、だよ。
 はっきり言っておせっかいだー! と怒ってみる。
 けれど、大声を出したからといって聞こえたわけじゃないみたいだ。いっこうに態度が変わらない。こいつに私の意志を伝えるにはどうしたらいいんだろう? 気をつかわなくていいよと折りにつけ話しかけてはいるけれど……うーむ。
 私の携帯ははっきりいって時代遅れだ。かなりゴツくてしかも色が黒。男っぽい。まあ、お気に入りの色がこれしか残ってなかったから買ったわけだけど。今ではこの色じゃなくちゃダメってくらいに思い入れがたっぷりと詰まっているさ。へへん。買い換えなんて思いもよらない。
 昨日のこと。私は気付いたことがあった。
 彼氏との待ち合わせに、私がいつものように5分だけ遅刻して到着すると、彼氏の胸元から何やらメロディーが流れている。エリーゼのために、かな、これは。
「おはろー、メールでも着信したの? でもいつもと音楽違うよね」
と言った私に、彼氏はうつむいてごにょごにょと言っていた。
 私は第六感でピーンと来ちゃったのだ。
 彼氏の手を取って、明るい場所に引っ張り出す。えっと、私が太陽に背を向ければキレイに写真に写る……んだったよね?
「はいはい、携帯で写真撮りますよー」
 強引に彼氏をレンズに収める。バシャア、と妙に音割れのした合成音がしてシャッターが切られた。
「はいはい、お次はかわいいピンクの携帯ちゃんです~。ささ、撮らせて撮らせて!」
 わけがわからない、って顔で首から提げている携帯を差し出す彼氏。私はいちばんキレイに写るように角度とか距離とか調節をしてみた。写真のことなんかよくわからないから、不審な前後運動を繰り返してしまった。きっと怪しい女に見えただろう。気にしない、気にしない。
 いつもよりかなり控えめな音で、パシャっと鳴る私の携帯。
 一枚目はとまどいを残しつつも私に笑みを向けてくれる彼氏の日に焼けた顔。
 二枚目は、私が近づくと恋のメロディーを流す、ピンクのかわいい携帯ちゃん。
「気ぃつかいの携帯クン、ごめんね、私のほうが気を使えなくって」
と謝った。
 携帯電話だって、恋をしたいんだもんね。
 ウェディング・マーチは、私のためだけじゃなくて、携帯クン自身のメッセージだったんだ。

-了-

|

« おづね・れみ | Main | ユッケをいただきました »

SS(ショートショート全般)」カテゴリの記事

Comments

こんな古いのが見つかってしまった~(^^;

Posted by: おづね・れお | 2005.09.14 at 11:07 PM

なんと!ほのぼのー!

Posted by: さん | 2005.09.14 at 07:37 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/17870/2788913

Listed below are links to weblogs that reference 『気ぃつかいの携帯』(三枚):

« おづね・れみ | Main | ユッケをいただきました »