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2005.01.21

『いばりんぼ』(三枚)

 紙コップの中に“いばりんぼ”が入っていた。いつもの塾に通う道すがら、公園の自販機で買ったミルクティー。私が手に取るともうひとつのコップがぽんと飛び出してきて、中にいたのだ、そいつが。
 梅の実を一回り大きくしたくらいの大きさで、ベッコウのようにつやつやした深みのある表皮は無数にひび割れしている。ほとんど黒目しかない大きな目玉をふたつ、くりくりさせ、ときどき跳ねる。私はあられせんべいを思い出して思わず腹が減った。
「やいやい、今は何時だ。こう寒くては夜が待ち遠しくてかなわん」
 “いばりんぼ”は威張り腐っている。そのくせ、どこか淋しげだ。
「どうして寒いのに夜のほうがいいのさ。それにどうしてそんなに威張っているのさ、“いばりんぼ”は」
 元黒飴みたいな目玉をぷるりとふるわせた。返事をしてもらえてうれしかった……のか? じゃあ私と“いばりんぼ”はおんなじだ。
「お前は誤解をしている、誤解を。やいやい、寒いのが悪いなんて言っていないぞ」
「そうだっけ。どうでもいいけど」
「やいやい、投げやりな態度、よくないぞ。予はこう言ったのだ、『こう寒くては夜が待ち遠しくてかなわん』と」
「かなわん、と言ってるじゃないのよ」
「そうだ、まったくかなわん。予のふるさとは小熊座の妙見なる天空の光、極寒の星よ。こう寒くては恋しくてかなわん。やいやい、何時だ、問うているのが聞こえんか。星は見えるか見えないか」
 紙コップの中でカラコロと転げまわる。
「もうじき五時。星なら見えてくる頃だよ」
「なんだって。ああ、待ち遠しい。待ち遠しい」
 待ち遠しすぎたのか、“いばりんぼ”ははじけてしまった。殻がふっとんで、中からたんぽぽを思わせる綿毛が出てきた。私はチャンスとばかりに息を吹きかけて本体を探ったけれど、毛深すぎて地肌は見えなかった。残念だ。
 駅前の六階建ての建物が私の目的地だ。
 塾の玄関をくぐる頃、猛烈な北風が吹いて、“いばりんぼ”の姿は見えなくなった。ふさふさの毛があだになったらしい。私は授業の合間に友達全員にこのおかしな出来事をメールで知らせた。友達といってもたったの五人だったけれど。
 “いばりんぼ”のことはしばらく見なかったけれど、一度空き地のいたどりの白い房の上であられせんべいのような赤い塊が跳ねているのを見かけたから、元気にしているのだろう。小学生の男の子、女の子達が何人もあいつを取り囲んで一緒に跳ね笑っていた。
 私もこのごろ友達が増えたよ……と、心の中で呼びかけた。

-了-


(三語即興文:お題「いたどり・小熊座・紙コップ」「ほほえましい話」)

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Comments

お久しぶりです~。さっそく伺って拝見して参りました。
一行即興文を除いても42作品ありましたか(^^;
私のところでは作品数の把握ができておりません。(だめだなあ)
甲斐さんが作品へのリンクを作ってくださったので、他の方に自作品を紹介するときに使えるかも……? と思いつきました。
こちらからもそのうちにリンクを張らせて頂こうと思います。そのときにはよろしくお願いします。

Posted by: おづね・れお | 2005.01.23 at 08:39 PM

ご無沙汰しております。《ミナソコノ住人》の甲斐です。
ココログ小説の登録更新を行ったので、報告までに。
圧巻の42作品追加です。なお、失礼かとは存じますが、一行即興文等の枚数が少ない作品は省かせていただきました。
……おづねさんは別格で紹介記事を作成したほうが良いのかも(苦笑)
何か至らない点がございましたら、仰っていただければ訂正させていただきます。
それでは今後とも宜しくお願いいたします。

Posted by: 甲斐ミサキ | 2005.01.23 at 02:08 AM

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