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2004.12.10

『スターフィッシュ』(二枚)

 風があまりに強かったんで、ぼくたちは高校生にもなって、自転車の背を押されるままに冬の荒磯に向かった。午後のペダルは学生ズボンの裾を巻き込みそうになりながらも、軽い。幼なじみのナギと一緒なのはとても久しぶりのことだった。一時間だけ過ごしたら、夕凪の間にぼくらの町に帰るとしよう。
「見て見て、ヒトデ」
「なんだよヒトデくらい。珍しくもないだろ」
「珍しくないよ。でも、こいつら冬眠しないんだねえ。寒くないのかなあ」
「この時期は海中のほうが温度も安定していて過ごしやすいくらいじゃないかな。それにヒトデは十一月頃に産卵するんだ」
「へえ。そんな寒い時期に生まれるのか。じゃあヒトデはみんな風の子だね」
「俺は五月生まれだから、ここは寒くてかなわないよ」
 じっさい、そろそろやむはずの風はまだまだ強くて、さっきから耳が痛い。
「あはははは。仙太郎は火の子だ。コタツで丸くなってミカンを食べるのがお似合いだ」
「ナギこそ、ナントカは風邪を引かないって言うからな。うらやましいぜ」
 ぼくが返す憎まれ口なんか、彼女のあだ名の通り、ヤナギに風。
「馬鹿は良いよ、難しいこと考えないから肩も凝らないしね。仙太郎みたいに体中の血行が悪くなると風邪だってすぐ引いちゃうんだよ。もっと馬鹿になれ、仙太郎。ほら、手裏剣シュシュシュ」
 何か投げつけてきた。ヒトデの死骸だ。五本の腕(足か?)が容赦なくぼくの腕と言わず胸と言わず突いてくる。
「いていて、いてっ。馬鹿、これ固くて痛いぞ」
「へえ、効果ありか。スターフィッシュというくらいだから、魚みたいにぬるぬるしているかと思ったらざらざらだし」
「スターフィッシュ? 馬鹿だと思ったら、しゃれた単語を知っているじゃないか」
「星、好きだからね」
 ぼくたちはそんな会話をして磯を引き上げた。予定を超過したけど、久しぶりに一緒に過ごすナギは前と変わらなくて、ぼくは安心を得る。
 自転車にまたがろうとしていた時、燃え尽きる前の蝋燭のような弱々しい赤い空に浮かぶガラス玉のきらきらが何粒も見えた。言葉もなく眺めていると、ナギがこんなことを言ってきた。
「今日が死んでも星は巡っているよね」
「え、何?」
「今日が終わっても、それは私たちの中で区切りだけなのよ。星は巡っていて、また次の今日がやってくるのを数えているんだよ。――だから私が眠っても、馬鹿のままでも、私の気持ちはずっと続くんだよ、きっと」
「詩人だな、ナギは……」
 ぼくが意味を取りかねて言った言葉が終わらないうちに、ぼくの頬をナギの毛糸の手袋が包んだ。そのまま目隠しされて、
「キミが私の星なんだよ」
――ささやき声が耳の奥に残った。

-了-


(三語即興文投稿作品:『星、風、死』追加ルール:『若い主人公』)

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Comments

ではチャットにそれとなく出没するようにします~。

関係ないですけれど、なんとなく「はぶちゃ」で深江さんに文芸話を聞かせていただいて、今日はチャットで得をした気分です(^^)

Posted by: おづね・れお | 2004.12.14 at 02:28 AM

では時間見つけて参ります!
時間見つけてというか僕はいつでも暇でございます。
小説書きのペース次第かしら。
この時期皆さん忙しいみたいですね。
忘年会5つとか。よく体力が持つなあ。

語彙なのかどうか僕もちょっと自信がなくなってきました(笑)。
でも、語彙もあると思うんですよね。

Posted by: キリハラ | 2004.12.13 at 11:42 PM

お褒めいただいて、恐縮するばかりです(^^;
この一年で書いてみて、それなりに文章がこなれてきたのだとしたら、うれしいですね。語彙……語彙なのかなあ。そのへんは今はわかりません~。

えーと、文章鍛錬企画http://tanren.gozaru.jp/のチャットに、よくひとりでぽつーんといたりします(^^;
23時過ぎになりますけれど、だいたいいつでも暇はあるようです。キリハラさんが時間の取れるときに、お話ししたいですね~。

Posted by: おづね・れお | 2004.12.13 at 05:02 PM

うーん、語彙力が強くないとは思えない。
語彙というか表現の自由度なのでしょうか。
自在に表現されているように感じるんです。
どうしても自分との比較になってしまうので
何とも言えないといえばそうなんですけども。

チャットいいですね。是非!
色々お話聴きたいですし。
僕が何も言えなくてがっかりさせないかどうか、
そっちが心配です。困ったもんです。

Posted by: キリハラ | 2004.12.12 at 11:51 PM

キリハラさん、こんにちは~。
いつもありがとうございます。リンクの件、ご一報いただきありがとうございます。
ご、語彙ですか。どうなのでしょう、読書の量はたぶん普通だと思うし、質も、じつは文学系はあまり読まないし(^^;>
でもそんなに語彙ないですよ、きっと。
先日も「ガジェット」を調べて、こんな意味だったんだ、なるほど~と思っておりました。
……答えになってない気がしてきました。チャットとかでお話ししたほうがスムーズかもしれませんよね。どうでしょう?

Posted by: おづね・れお | 2004.12.12 at 12:02 AM

前々からお訊きしたかったのですが、
おづねさんの語彙力はどこから得たのでしょうか。
やはり読書の量と質でしょうか。

押し付けがましくない人物と表現の多彩さを
とてもうらやましく思うのです。
木国谷くんといい今回のナギといい。
ナギの話もまた読んでみたいなあ。

ところでふゆきょうからリンクしてしまったんですけど、
困るようでしたらすぐに外します。

Posted by: キリハラ | 2004.12.11 at 04:23 PM

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