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2004.10.31

『乱れ刃(やいば)』(三枚)

「勘合貿易の頃に入って来た宗時代の薙刀で、払いだけではなく突きにも使えるよう、槍の穂状の刃を具えている。斬る、突く、払うと多様の能力を持つためこのような形状のものを乱れ刃と私は呼んでいるが、正式ではない。先年、この乱れ刃に人影が映るようになった。いや、人影だと思っていたのは見間違いで、よくよく見ればそれは人ではなく怪物であった。頭は猿、尾はクチナワ(蛇)、手足は虎である。胴は狸かムジナであるように見えた。それがヒィヒィと悲鳴たような声で訴えるのだ。『ぬし、ぬしよ、我はヌエである。かつては都を脅かしたが、人の手にかかって今はこのような有り様。どうか出してはくれぬか』と。嘘ではない、まだここに閉じこめたまま、哀れに訴えの声をあげておる。ご覧なさるか、どうかな、見えるかな。何、見えたと思うたら、消えたとおっしゃるか。そういえばヌエめはこのように申しておった。『人に封じられし身は人に依りてのみ解かれる。人の眼がよい。ぬしのその濁りはじめた眼には入れぬ。澄んだ眼がよい。のう、誰か我を依らせる人を知らなんだか』とな。もしかしたらあなたの眼にすでに乗り移ったのかもしれぬぞ。――冗談じゃ。ヌエは自分の声が聞こえぬ者には宿れぬそうじゃ。きっと姿を見せたと同時に自分の声が聞こえぬ相手と知り、乱れ刃の合わせ鏡のすき間に引きこもったのだろう。あれは気が向かぬと何日でも何ヶ月でも姿を見せぬ。そう、あなたにならば気を許して姿を見せるかと思ったのだ。ダシにしてすまなかったな、木国谷くん。お詫びと言ってはなんだが、どうだね、食事を予約してあるんだが――」
「ってことがあってさあ」ぼくは百日紅にこぼしていた。「じつは、あのときヌエがどうしても助けてくれってしつこいから、うかうかと眼に入ることを許しちゃったんだよね」「木国谷は甘い、甘すぎる!」「なんだよ百日紅。そもそもお前がこうやって自由の身になれたのだって元はと言えば同じような――」「わ、わかったわかった。それを言われると弱い。その星霊を自由にしてやる手伝いをすればよいのだろう、いちいち古い話を持ち出すヤツだ、始末に追えん、まったく、なんたること……」「ぶつぶつ言うなよ。ところで、依り代(よりしろ)だけど、ぼくとしては鳥がいいと思う。だって、こいつの鳴き声はヒィヒィと、怪談に出てくる女の人の泣き声みたいでさあ、うるさくって……なあ、聞いてるんだろ。え、何、ぼくがそれ捕まえてくるの? お前やってくれないの? ひどいなあ、おいちょっと百日紅、手伝ってくれよ。手伝えってば……」

(三語一行:お題「つき みだ んご」)
※百日紅のお話の続きになっております。

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Comments

何もかも手探り状態ですので、とてもお見せできないものになるかもしれません(^^;
投稿はしない方向ですので、こっそりとどこかで公開しようかなあ、とか……取らぬ狸のなんとやら、かも。

Posted by: おづね | 2004.11.04 at 12:50 AM

来年まで待ちます(笑)。
おづねさんの書く長編はどんなものになるんだろう。楽しみです。

Posted by: キリハラ | 2004.11.04 at 12:39 AM

キリハラさん、いつも読んでいただきありがとうございます~。
木国谷をひさしぶりに書けて楽しかった一編でした。
長編は来年から少しずつ……では、だめですか(^^;?

Posted by: おづね・れお | 2004.10.31 at 11:55 PM

 木国谷君が!思わず顔をほころばせて拝読しました。
 一人称の饒舌さはおづねさん作品の大きな魅力だと思ってます。それに木国谷君のようなキャッチーな人物を絡ませられるともう。たまりません。
 『サピエンス』でも感じたことですけど、やわらかで魅力的な人物を描かれますよね。彼らが動き回る長編も読んでみたいというのは欲張りかしら。

Posted by: キリハラ | 2004.10.31 at 11:05 PM

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