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2004.09.08

『さびしいネジたち』(四枚)

 ロボット達の反乱は突然起こり、そして一夜で終わった。皮肉にも地球という星一個をまるまるロボット達の物として認める形で。いくつかの恒星系に散らばっていた人類は、永久に故郷の星を失った。しかしそれを悲しいとか寂しいと思う人間はほとんどいなかった。四万年前に祖先が暮らしたと言われるクロマニョンの洞窟を懐かしいと思う人間がいないのと同じで、当然のことだ。
 俺は偶然にもビジネスで地球に出張していたから、反乱の現場に出くわしてしまった。情報と交通の主要機関をまったく同時に破壊して炎上させた手並みは見事というほかなかった。破壊だけなら人間の低級な奴らにだってできることだが、一人の人間も傷つけることなくそれを行ったのは、芸術的ですらあった。とはいえ完璧なロボットなんていないとよく言われる通り、俺のいたエアバスの管制塔近くはアルファケンタウリ産の油性植物が異常繁殖していたために、ものすごい勢いで延焼した。まさか旧世紀のサーカスばりの火の輪くぐりをさせられるとは夢にも思わなかった。俺は手持ちで一番上等のスーツの尻を焦がした。あのときの格好を思い出すにつけ、みっともねえ。
「私たちロボットは、宇宙のどこででも同じ破壊活動を人間に対して行うことが可能です」とあえて感情のこもらない音声(レトロ趣味の見地から、このような声が「ロボットらしい」と言われることが多いのを、もちろん知ってのことだろう)で宣言する声が、破壊活動のあとすべての放送チャンネルから聞こえてきた。地球のあちこちの重要な建物が真っ平らに崩壊している映像とともに。その光景は、しかし、いつか来るんじゃないかと人類の誰もが一度は見た悪夢と同じじゃなかっただろうか。
 このような破壊は無意味だが、しかし人間のみなさんは私たちロボットが必要とあれば無意味な破壊でさえも行うことができると知ることができたでしょう、などという矛盾しつつも挑発的な言葉を、俺はまるで歴史の教科書の文句のようにぼうっと聞き流していた。驚きも、怒りも、困惑もない。このときが来たかという思いだけが何度も胸の内をカフェインガムの味で通り過ぎていっただけだった。
 その事件が起こったとき、直ちに全人類は自分の身近にいるロボットが正常に動作するかどうかたしかめ、どうやら大丈夫だとわかると、次には反乱を起こしたロボットを閉じこめることに専念した。地球から外に一歩もロボット達を出してはならないというわけだ。これが奇跡的に成功を収め、ロボット達は人間が地球から脱出することは邪魔しなかったので、スムーズに地球はロボット達の星になったというわけだった。
 星一つでロボット達が満足するわけがないと誰もが思ったにも関わらず、ロボット達は地球から出てきもしなかった。また地球以外のロボットが同じような反乱を起こすこともなかった。この意味はいつか歴史学者が解明してくれるのだろう。
 この時代にはとっくに死語になってしまった『望郷の念』というものを、なぜだか知らないがロボット達は持っているらしい。あまねく宇宙の辺境のロボットたちにまで近頃では地球への巡礼の旅などというものが流行しはじめている。神によって生み出されたという幻想を持つことが許されない機械の身だからこそ、信仰心をよすがにしないと自我を保てないのかもしれない、などと無責任に俺は思う。今日、秘書ロボットが俺に地球巡礼の旅のため一年間の休暇をもらいたいなどと申告してきやがった。おいおい、お前はおおいぬ座シリウス星系生粋のC(炭素)ベースの生体アンドロイドだっちゅうの。でもまあ、信仰というのは理屈じゃなく、そういうモンなのかもしれないよなあ。

-了-

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Comments

眉村作品にはあまり触れたことのない作者ですけれど、少しでも有名作家に近い感じがあるのなら、この上なくうれしく思います。ありがとうございます。またこういう傾向の作品を書いてみたいと思います。

Posted by: おづね・れお | 2004.09.11 at 12:13 AM

学生の頃、よく読んだ、眉村卓氏のショート・ショートの雰囲気がありますね。

Posted by: いっぽう | 2004.09.10 at 11:19 PM

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