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2004.07.13

『可逆』(九枚)

※途中で作者が朦朧としますが、どうかお見逃し下さいませ(^^;
 
 
 
 学園内の記録によれば、彼女はこの学園のどこにも存在しないはずだった。だのに彼女の存在は俺の興味を引きつけて離さない。篠乃儀アヤ。俺は女子高校生のどぎついほどの笑顔が大の苦手なんだが、この子の控えめなはにかむような笑顔は、ごく自然に俺の心をときほぐしてしまう。今時の高校生がスレンダーになったと言ったって、彼女のあの足首の細さには勝てる逸材はそうはいない。とは言っても、なに、恋愛感情なんかじゃない。俺の目に好ましく見えるってことは、つまり、彼女が異分子なんだってこと。問題は、彼女が「妖し」か、「折伏者」か、どちらかまだわからないということだった。近頃は折伏者が仲間を妖しと間違えて同士討ちをするなんていう悲劇がよく起こっている。それだけ多くの妖しが目覚め、それに呼応して折伏者が次々に覚醒しているという証拠だけど。最初は折伏者も、自分に顕れた超能力にとまどうし、それを隠そうとするから、仲間に気付いてもらえないことが多々あるわけだ。俺は彼女がどちらであるかわからないまま、接触を試みることにした。いざというときには……命を奪うことにためらいはない。場所は放課後の体育館、彼女がバレー部の用具片づけ当番の日を選んだ。俺はトイレを借りるフリをして、校庭側の出入り口から体育館に入る。両手でネットを抱えるようにして畳んでいる彼女と、そしてほかに誰もいないのを見て取る。「トイレ、借りていいですか?」「あ、はい、どうぞ」彼女はこちらに背を向けたまま答えた。おそらく俺が声をかけるだいぶ前に気付いていたに違いない。敵か、味方か、やはりわからない。俺が親切を装ってポールを床下に収納してやったら、ぺこりとお辞儀をして「ありがとうございます」と言ってきた。ボブカットのつやのある黒髪がさらりと流れるとうなじの白さが目に飛び込んでくる。接近しても、わからないか。試すしかない。曖昧に返事をし、歩いてトイレに入るふりをして、俺はすでに片づけられたバレーボール入れに視線の力を込めた。右側に力を込める。ぐるりと回る。そして三基の脚のひとつを強く視線で叩いてやる。ガツ、と床を跳ねるようにしてバレーボール入れがひっくり返った。ボールが体育館中にゴロゴロと転がり始め、彼女は音にびっくりしたように跳ね上がって、慌ててボールを追いかけ始める。「俺がいなければ、能力で簡単に片づけられるだろうに……」ぼそっとつぶやいた声に、彼女が反応した。案の定だ。到底常人に聞こえることのない距離だったのに、彼女はぴくっと両耳を動かした。頭の上にイクスクラメーション・マークが見えたように思う。それから肩を怒らせ、首を前に突き出しながら、彼女は俺に向かって歩いてきた。「ちょっと、ちょっと、ちょっとー。能力って? 君も変な力持ってるわけ? もしかして、これは君の仕業?」殺し合う敵同士の会話とも思えない、暢気な台詞だ。演技とは思えない感じだが……油断はできない。「ああ、ごめん。あんたを試してみたかったんだ」「試すぅ!?」彼女の瞳が金色の光を帯びた。能力を発動する合図、しかも、これは折伏者の証拠だ。彼女は人類の味方、折伏者だったのだ。残念だ! 俺は彼女を敵として葬らなくてはならない。俺の瞳が赤く光ったのを彼女の目は見えるだろうか。いや、きっと網膜に映った像の意味を理解する前に死に至るに違いない。せっかく彼女のことを気に入っていたのだが、仲間でなかったのなら、仕方がない。俺の能力『慣性への冒涜』で、彼女は一瞬の時をまたいで生から死の世界に旅立つのだ。十億歳の大理石よりも硬い沈黙にいざなわれて。「あー、もう。あなたが私の敵か味方かは知らないけどね。今回は見逃してあげるから。いたずらは許さないよ」おかしい。彼女の暢気な声が聞こえる。俺の能力も発動していない。「なにを、した……?」思わず声が漏れた。そして五感が違和感を訴えている。おかしい、おかしすぎる。ぶっちゃけありえない(←作者朦朧)。さっきのバレーボールが、元の位置にすっかり納まっている。彼女は今まさに俺の目の前にいたはずなのに体育館の真ん中に戻っていて、俺に背を向けてネットを畳んでいる。わけがわからないが、俺は「妖し」の一員として、「折伏者」を見逃すわけにはいかなかった。「浴びろ、『慣性への冒涜』」今度こそ、俺の視線が彼女を静止させるはずだ。「あ、そういう能力なの」俺が彼女のそんな言葉を聞いたとき、俺は体育館の入り口の位置に戻されていた。「どう、記憶飛んでない? 私の能力は使いすぎると相手の記憶も一部壊しちゃうみたいで、危険なんだよね」時が戻ったのか、と俺は錯覚するところだった。違う。彼女はネットを畳み終えて、用具室に入れるところだったのだ。時間は過ぎている。だが、俺は知らないうちに元の場所に移動させられている。どんなからくりだ。彼女の能力はなんだ。俺は三度試みた。大規模破壊になるが、体育館全体に『慣性への冒涜』を働かせる。静止しているものをまったく逆の激しい運動の状態に転換できるこの能力で体育館全体を液体状に動かし、流動する質量で圧殺するのだ。床が、壁が、ガラスが、天井を蜘蛛の巣のように縦横に覆っていた金属のパイプ類が、水飴のようにどろりと溶けだし、空間をシュールレアリズムの世界に変えていく。「妖しの者は、逃げるわけにはいかなくてね。仲間に殺されちまうからな。悪いけど、何も知らないまま、死んでくれ」その時。「バカヤロウ!」野太い声とともに、決め台詞を言ったはずの俺の顎に、拳がクリーンヒットしていた。な、何だ、わけがわからない。今の声は、女の声じゃなかったぞ? それに流動する体育館は、どうなった? 「お前、ほんっとーーに、言ってもわからないヤツの典型な。こっちが、おとなしくあきらめろ、お前じゃ俺に勝てねーよ、って言ってるのがわかんねーの? たまーにお前みたいなニブいヤツが現れるんだよな。何なんだよ、さっき言ってた妖しとか折伏者ってのはアニメの設定と違うわけ? 俺は頭悪いからわけがわかんねー。でもお前ほどニブチンじゃないけどなー。あーもう自分で何を言ってるんだか!」「ま、まさか……男?」「ニブチーン! 篠乃儀アヤオが男だってことくらいこの学校の生徒なら誰でも知ってるだろー。まったくキレたときくらいしか男言葉は使わないからさあ、新入生には間違えられることが多いけどさあ、ちゃんと部活紹介でもくどいほど説明してるのにさあ、ってお前も勘違いしてる新入生なのかよ」「うそ……」「信じろ、ほれ」篠乃儀アヤが俺の手を取って胸に当てる。たしかにぺったんぺったん。「俺は、この学校の生徒じゃない。お前のような折伏者を見つけたら殺し、仲間がいたら助け出すために侵入した」彼はふうん、と、男だとわかっても女にしか見えないつるっとしたまるい顎と頬を片手でこすりながら、視線を斜め上に向けて、何か考えるような顔つきをした。「で、俺を殺せなかったら、お前が殺されるの?」「そうなるな」「俺はお前を殺すつもりはないけど、どうする?」真顔でこんなことを言ってこちらを見つめてくるまなざしは、嘘を言っているようには思えなかった。「あはははは。あんたの言うようにアニメの設定だったら、これで俺が仲間になるんだろうけどなあ」俺は笑ってしまった。いや、だって笑うしかないじゃないか。彼は、まだ私が男だと思ってるみたいだからさ。だめだなあ、女の子じゃないんじゃないか。予期してなかった自分が悪いとは言え。惚れるとは、ね。こりゃあ任務失敗だ。「仲間にはならないけど、俺は組織を抜けるわ。あんたに負けたのは紛れもない事実だし」彼は半信半疑のようだったけれど「ふうん。なんだかいやにあっさりしてるな。まあいいや、あとから変なのが現れたら、慣性への冒涜は自滅したって言っとく」「うわははは、事実だな。じゃあ、死んだ証拠に、もう用のないこの学ラン、置いていくか。それとあんたの能力、あれわかったぞ。そうだな、こっちの能力になぞらえて言うなら、因果律への冒涜ってところか。因果可逆の視線」「あ、それかっこいいかも。名前いただき」そう言って片目をつぶって見せた緊張感のない彼に私は学ランを投げつけて、その場を去った。学ランを脱いだ姿を見た彼がぽかんと口を開けて呆けていたのが見えたから、やっぱりこっちが女だってことに最後まで気付いていなかったんだな。ちくしょう、なんか悔しい。なんだかわからないけど、悔しくて胸が爆発しそうに熱かった。

-了ー

※ついに九枚作品……しかも午前4時近くなり、ほんとうに朦朧としながら、まとめきれないものをなんとか書いたという感じです。書きたかったライトノベルっぽくはなったような気もするのですけれど、まだまだ甘いし、いろいろとなんかおかしいし(^^; どこかで見たような感じだし(^^; でもこの一年は、「拙いところも出す」ということにしたのでした。うん、そうだった。ということで、載せます。

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