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2004.06.22

『破片』(4枚)

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タイトル:『破片』
書き出し:
 ○○はパソコンの画面をじっと見ていた。メールが届いていた。差出人に心当たりはなかったが、どうしても読まなければならない、と思った。頭の中で警報が鳴り響く。もう一人の自分が「やめろ」と言う。

 ○○は人の名前ですが、「俺」「僕」「私」でも構わないです。
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『破片』

 Nez-4Lはパソコンの画面をじっと見ていた。メールが届いていた。差出人に心当たりはなかったが、どうしても読まなければならない、と思った。頭の中で警報が鳴り響く。もう一人の自分が「やめろ」と言う。
 ロボットの自分に、好奇心という分析不可能な要素を埋め込んだのは、人間の気まぐれだろうか、それとも愛情だろうかと、ときどき彼は考える。複数の電子頭脳による合議制が採用されているのは、人間心理の多重性をシミュレートしたものだと聞いた。
 好奇心と理性と。
 さてこの場合はどちらが勝るのだろう。
 結論はわかっている。自分を作り出した人間達と同じなのだ。
 好奇心という破片は頭脳の深奥に食い込んでいて、自分はその誘惑から逃れることができないのだろう。

 Nez-4Lがいるのは、火星に設置された探査基地のひとつ、ピロテクニマ。ここには人間は一人も残っていない。数日前に地球が原因不明のトラブルで交信不可能になったときに、セントラル・ベースに緊急招集されていったからだ。そして今はそのセントラル・ベースも、沈黙している。何が起こってるのかはわからないが、おそらく完全に破壊されていると考えられた。おそらく地球も、戦争または大規模災害で一瞬にして壊滅した可能性が高い。
 その形から今でも懐古趣味でパソコンと呼ばれ続けている電子機械は、火星基地のすべての情報を把握しているターミナル・コンピュータである。たとえ人類が死滅しても自動で動き続けるこれらの機械は、破壊されない限りメッセージを自動的に送受信し続けることになっている。もちろん今はどこからもメッセージは送られてきてはいない。
 宇宙の孤児になってしまったようだ。Nez-4Lは文学的な比喩で自分の置かれた状況を定義した。
 つい九時間前に火星は流星雨に見舞われ、多数の隕石が落下、この基地ピロテクニマの機能も一部損傷している。セントラル・ベースが運悪くこの流星雨によって破壊されたという可能性はある。また、もしも地球がこの流星雨をもたらした天体に襲われたとしたら、交信が途絶えた時刻と計算上は一致している。
 だが現代の探知システムで事前に察知できない流星雨とはいったい何なのか。
大昔のSFのように、外宇宙からの侵略だとでも考えるべきなのか。Nez-4Lに蓄えられた人類史すべてを網羅した科学知識でも、データは不足しすぎていた。
 それに、安易な想像に費やす時間も与えられていなかった。
 システムをやっと通常運転に復旧させた今、災害の原因究明を優先すべきだった。なすべきことははっきりしていて、理性という機能がしきりに行動を促してくる。
 けれども、Nez-4Lは目の前の画面からカメラアイを離すことができなかった。
 メールの差し出し時刻は一分前である。
 タイトルは「ハッピーバースデー」。
 誕生日? 誰の? そして、どうして自分に?
 Nez-4Lはついに好奇心に負け、そのメールを開く。
 何かが終わり、そして始まるのだ。
 人間達に植え付けられた予感という別の破片が電子頭脳の中で鎌首をもたげるように働き始めているのを、感じていた。

-了-


設定をひねってみました~(^^;
出題者のセタンタさんが意外に感じてくださればうれしいなあ、と思います。


◆次のお題
『キトラへ』
 新月の晩だけれど、私の目はあたりを真昼のように鮮明に見渡せる。
 昼間の眠気はどこへやら、意識は四肢の先まではっきりしている。
 まるで野獣になったよう。
 台風が過ぎ去ったあとのなま暖かい風に髪をさらわせるに任せて、私は駆け出す。


(コラボ即興文投稿作品)

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