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2004.06.20

『スピンテール』(四枚)

 泥の精霊ボルボロスが頭の上に落ちてきた、と言って怒りながら振り回している金髪の「それ」は、たしかに私たちによく似ている形をしていた。「スピンテール、これは君たちの一人だろう、ぼくの頭にぶつかってきたんだ。よく注意してくれないと困るじゃないか」何も私に言ってこなくてもいいと思うけれど。私は一族の中のすれっからし、パチパチ頭のスピンテールじゃないの。文句を言うなら族長にしたらいいのに、ま、ボルボロスも強い者には何も言えない臆病者だからね、しょうがないか。ぷんすか湯気が上がりそうな頭で去っていったボルボロスが置いていったのは、よく見ると私たちと違って二本の足を持った人形だった。ははん、この海の底ではボルボロスも人間なんて見たことがなかっただろうね。この尖った冠、きっとこれが命中して突き刺さったんだ、あのチョウチンアンコウモドキの頭に金ぴかの人形が突き刺さっているところを想像したら、うわっはは、おかしくてお腹がよじれてウロコが飛び散りそう。今日は私たちマーメイドアカデミーの六期生が人魚の住処であるマーメイドガーデンの巡回を担当する日だ。本当なら、班長に人形を届けなければいけないところだけれど……。じつは私自身、陸上に棲むという人間の姿をこの目で見たことはない。だから、こっそり部屋に持ち帰って毎日眺めることにした。時が経ち、いつしか私はこの人間の姿に恋をしていた。いつか、人間の男性に巡り会いたい、そう思うようになった。意外にも、私のようなすれっからしを気に入る物好きなマーマンが、何人もいて、それぞれに魅力的なプロポーズをしてくれたのだけど、私は全部断って、ずっと独り身でいた。やがて誰も私にダンナをあてがうなんて話を持ち出さなくなった。それからさらに二十年も経った頃、風変わりなところと、地上の世界のことをよく調べて知っているということから推されて、私は族長になった。さらに二百年も経ち、海底火山が大噴火するという大惨事が起こった。私たちの一族は、マーメイドガーデンに住めなくなり、新天地を求めた。新しい族長と共に。一族が全員旅だった時、私は一人、群れを離れて海を上へ上へと昇っていった。激しい水温の変化と勝手のわからない海流に翻弄され、私の老いた体はぼろぼろになっていった。皮膚はほとんどすべてはがれ、目は曇って見えなくなり、かつてはホシヒトデのようにパチパチだった髪もしおれて抜け落ちていった。でも幸運としか言いようがない。私は人間に発見されて、彼らと一緒に連れて行かれたのだ。指先の感覚もなく。目も見えなかったけれど、かろうじて耳だけは少し聞こえたのだ。今では私は博物館というところに安置され、人間たちのささやくような声を聞く毎日だ。彼らは私がこのような姿になっても生きているということに気付いていないのかもしれない。姿勢も変えることができずにじっとしてるのは苦痛ではあったけれど、私は今でもあの人形と一緒だったから、不安はなかった。いつしか人間よりも、あの人形こそが私にとって大事だということに、私は気付いた。ずっと、一緒に、ここで生きながら朽ち果てよう、あのときの淡い気持ちとともに。

-了-

(一行即興文:お題「きせ、いちゅ、うに」(ただし帰省中、規制中、寄生虫は禁止))

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