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2004.06.17

『サラマンダー』(一行)

 ここ一年で我が特殊部隊インビンシブルの出動回数は文字通り桁違いに増えた。星霊学者たちは何者かがゲートを開いた影響だと言うが、具体的な対応策は何一つ提示しない。私は彼らは穴蔵での文献漁り以外には無能者の集団だと確信するに至った。ここ数日、世界中の航空機を火の玉に変えている超自然現象にも、彼らがやった仕事といえばサラマンダーという名前を与えただけ。結局、現場がどうにかしなければならないのだ。今日は高校生の息子の進路相談の予定日だったが、非常事態とあっては仕方なく、スカイハイと呼ばれている一人乗り成層圏航行機械で編隊を組織して、サラマンダー撃退に向かう。まったく、非常事態が日常になってしまった、と口の中でつぶやいた言葉は、腹心の部下にも聞かれぬまま胃袋に落ちて溶けた。サラマンダーは火の竜をイメージさせる名前だが、実体はまるで違う。炎と稲妻の混合体のような、球体の周りに高エネルギーの腕を何本も走らせている、非常にとらえどこのない高速移動体だった。サラマンダーにとってはスカイハイの誇る十音速の移動速度でさえ、亀の歩みに等しいだろう。奴は部下のスカイハイ一機にまとわりつくと、エンジンを高熱で蒸発させてしまった。爆発する機体に私は南無三とつぶやくと、サラマンダーを引きつけるべく機首を向けた。武器は一切命中しない。正確には高速すぎてロックオンさえもできないのだ。いっそ宇宙空間にヤツごと吸い出されてやろうかと思った。しかし、息子の顔が一瞬脳裏をよぎり、その考えを捨てさせた。あいつは、先日失恋したと言っていた。手の届かないところに両思いの少女が去っていってしまったのだと。別れが立て続けになっては、あいつが気の毒じゃないか。私たちはサラマンダーを引きつけては、仲間が撃つ命中すれすれの量子ビームで牽制して引きはがすという動作を繰り返していた。万に一つもビームは命中しないと知っていながら。その時、高エネルギーの物体が戦場へと接近してきたのをレーダーが捕らえた。眼下の青い海と白い雲を引き裂いて、もうもうと炎を黒煙を撒き散らしながら鉄塊が暴威となって浮上してくるのが目視できた。私はすぐに地上と交信し、それが原潜から射出された大陸間弾道ミサイルだと知った。人類の罪と業の象徴。そんなものが今の我々の救いの神か。核の悪魔は、赤く燃えながら我々の戦場を垂直上昇していく。サラマンダーは格好の餌食とばかりに食らいつき、そのまま、やがて世界の上半分を染めている暗黒の中に吸われていった。数十秒後に起きた爆発で、地球は第二の太陽に照らされて輝き、やがて沈黙を取り戻した。「よくやってくれたな、お前達が粘り強くデータを収集してくれたおかげで、ヤツの特性を逆利用してやることができたわ」星霊学の世界権威とかいう憎らしい顔がモニターに映し出されて、どうやら褒め言葉を言っているらしかった。歯のほとんど抜けた口を開き、ミズカビのように頭皮にまとわりついた白髪揺らして笑っている。彼の目の下には疲労のため隈が色濃く浮き出ていた。私は無言で頭を下げ、部下に地上への帰還命令を発した。

-了-

(一行即興:お題は「かい、そう、さら」 )
※すでに一行と言うのもおこがましすぎ、チャットに貼り付けるのは迷惑、ということでお蔵入りになりました~(^^;
 ここって蔵だったんだなあ(笑)。


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