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2004.05.18

『黒猫のサンゴ』(三枚)

 我が家の飼い猫のサンゴがウナギをつかまえてきた。
 縁側でキューキューと変な声がすると思ったら、黒い体に金色の瞳でサンゴがこっちを見ていた。サンゴの白い牙で首根っこをおさえつけられているのは、大振りのウナギ。
 私の姿を認めるとサンゴはうれしそうに口の端をふくらませて、ナーと鳴いた。牙が食い込んだのか、ウナギはキューと鳴いて体をよじった。
 サンゴがつかまえてきたのはウナギだけではなかった。隣家のおばさんが生け垣の向こうで息を荒くしているのに私は気づいた。お年に似合っているという評判をあまり聞かない赤く染めた髪や、ぎらぎらした眼鏡とネックレス、肩を大胆に露出したいつものスタイル。この格好でスーパーに行く人なんだよなあ。
 さてはサンゴのヤツはウナギをこの人の買い物袋から盗んで来たのかな。
「琴子ちゃん、琴子ちゃん、ちょっと、ちょっと」
 おばさんは言葉を反復するのがくせだ。リフレイン効果を狙っている意図があるのかどうかはわからない。
 オレンジ色のタンクトップに水色の短パンという格好で、片手にうちわを持ったままの格好だったので、庭先に出て行くのがためらわれた。彼氏がいるでもない二十歳女の気持ちはビミョウである。でも同時にいい加減なので、次の瞬間私はとっととサンゴの首根っこをつかんでサンダルを足につっかけてぱこぱこと生け垣まで歩いていった。サンゴはナーと抗議したけれども、私がシャーッと威嚇するとおとなしくなった。
 あれれ、おばさんはずいぶん顔色が悪いな。お化粧に失敗したのかな。
「琴子ちゃん、琴子ちゃん、あぶないわよ、あぶないわよ」
 私が首根っこをつかんだサンゴが首根っこくわえているウナギ(ややこしい)を指さして、おばさんは動揺という名の像と化していた。片手に買い物かごを提げ、もう片方の手を突き出したまま硬直している様は、ちょっと近代的で現代的でシュールなゲイジュツだ。
「熱帯魚屋さんでサンゴちゃんを見かけたから、私気になって、気になって見ていたのよ。それ、デンキウナギ、デンキウナギなのよ!」
 熱帯魚屋さん、デンキウナギを猫の手の届くところに置かないでください!
 私はギャッと一声上げるとサンゴを放り投げた。ナーと鳴きながら空中でくるくるっと三回転してサンゴは着地し、体をくねらせているデンキウナギと家の中に消えた。
 私たちはその場で、『叫び』という作品の不出来な模造品になって硬直していた。

-了ー
 
 
 
(三語即興文未投稿作品:お題:「うちわ」「キュー」「ネック」で、追加ルール「季節感を取り入れて」)

お題を出したのがおづねですので、未投稿です(^^;
タイトルは『黒猫のタンゴ』(歌)に『黒猫の三角』(森博嗣)と「三語即興文」をミックス。

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