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2004.04.08

『幸子と公園の怪』(四枚)

 公園で幸子がまたぼくの野球ボールを隠してしまった。
「こら、幸子。どこにやったんだよ、兄ちゃんのボール」
「知らないもん」
 お父さんとお母さんが帰ってくる6時過ぎまで、五歳になったばかりの妹の幸子と遊んでやるのがぼくの役割だった。でも幸子よりも友達とキャッチボールをするほうが楽しいぼくは、幸子を一人で遊ばせておくことも多かった。そんなとき決まって幸子はぼくを困らせるようないたずらをする。ボールを隠すことはしょっちゅうだ。
 砂場かな、と直感した。幸子の視線をよく観察すると砂場のほうを見ようとしないからだ。案の定、真新しく掘り返した跡を足の先でつつくとボールが出てきた。
「だめじゃないか!」
とぼくは怒るけれど、本当は幸子は寂しいだけなんだとわかっていた。
「もう、するなよ」
 ぼくが言うと、幸子は小さくうなづき……そのとたん、ずるっと下の方に引きずり込まれてしまった。
「兄ちゃん!」
 幸子の足の先は二本の木の棒のようなものにくわえこまれて、砂の中に引きずり込まれていく。砂場はすり鉢のようにへこみを作り始めて、ぼくも姿勢を崩しそうになり、あわてて飛びのく。幸子はぼくのほうに手を差し出している。
 ぼくは左手で幸子の伸ばした左手をしっかりつかんだ。そのとき砂のすり鉢の奥で光を放っているたくさんの眼を見た。生き物……いや、化け物だ。
 化け物が顔を砂の上に出した。木の棒のように見えたのは大顎で、クワガタかアリジゴクのようだった。顔に続いて半分ほど出てきた胴体は半透明のガラス質で、中で気味の悪い茶色い体液がぐるぐる循環しているのが見て取れた。大顎の間に、金属質の二枚の歯が見えた。しきりにガチガチとかみ合わせている。あれで幸子を食いちぎる気なんだ。
「幸子、兄ちゃんにつかまってろよ、離すなよ!」
 ぼくは右手に掴んだボールを思い切り化け物の顔に向かって投げつけた。それは眼のひとつに命中し、化け物は幸子を放して砂の中にもぐっていった。
「兄ちゃん、ありがとう」
 泣いている幸子。気がつくとあたりは元の公園に戻っている。
「ごめんね、幸子ね、隠したの。兄ちゃんのボールも、お父さんお母さんの大事なものも……ごめんね」
 砂の上には、幸子が持ち出して隠した『家族の大事なもの』、お母さんお気に入りの外国製の爪切り、家族みんなが大好きな味のサラダドレッシングの瓶、お父さんの漆塗りの箸がバラバラに転がっていた。
 ぼくと幸子はそれらを大事に拾い集め、手をぎゅっと握りあって家に帰った。
「兄ちゃん、幸子の手を絶対に離さないからな」
 涙が止まらなくなってしまった幸子にぼくの言葉が届いただろうか――
 

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