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2004.04.08

『爪切り女』(四枚)

 夕暮れ時の公園には「爪切り女」が出る、という噂が全国的に広まっていた。
 ミチオは噂をの原因となった張本人だったのだけれど、まさかテレビで特集されるまでになるとは思わなかった。
 きっかけは朝食のサラダに小さな動物の爪のかけらが入り込んでいたことだった。サラダはお母さんが小さな庭の片隅に作った家庭菜園で取れた小松菜を使ったものだったが、ミチオの家では動物は飼っていない。
 大人たちは気づいていなかったけれど、このところ近所からはハト、スズメ、コウモリ、ネズミそれにゴキブリまで、小さな生き物の姿がまったくと言っていいほど見られなくなっていた。
 ミチオは自分の口に刺さった鋭く硬い爪が、小さい生き物が消えてしまったことと関係があると直感した。さっそく調査しよう、そして「自由学習ノート」に記録しておかなくてはならない、と思った。
 家庭菜園には、サラダに入っていたものと同じ動物の爪――おそらくネコの爪――がたくさん落ちているのが見つかった。切断面が鋭利なことから、人為的に切断されたものと思われた。また血痕らしきものも見つかったが、猫のものとも人のものともわからなかった。足跡のようなものは菜園のやわらかい土に少しだけ、猫の、それもかなり大柄のものがついていた。
 そういえば、夕方の公園で小さな声で「助けて」という声を聞いたことがあるような気がする。小さな生き物が姿を消し始めた頃だ。
 ミチオの頭にひらめきが起こり、それにもとづいてノートにこんなことを書いて担任の土田先生に提出した。
「公園には爪切り女が住んでいる。夕方になると子どもたちをつかまえて爪を切ってしまう。爪切り女はあたりのハトやスズメやネコを爪を切ったあと食べてしまう。食べ物がなくなるとゴキブリやネズミまで食べる。爪切り女に注意」
 土田先生は大いにおもしろがって、職員室でたびたび話題に出したし、またミチオの推理力ではなく想像力を、たいへんほめた。そして噂はまたたく間に広まっていって、今に至る。
「ミチオ! こんなに爪が伸びてるわよ。ほら、切らないと爪切り女につかまっちゃうよ」
 こんな風にお母さんに言われてしぶしぶお風呂上がりのやわらかい爪を切り始めるミチオだった。そのミチオを、天井裏の隙間からのぞき込んでいる三つの影があった。
「俺たちの化け猫退治の証拠から、あんな話を思いつくなんて、なかなかおもしろい子だよなあ、コウモリの精よ」
「感心しとる場合か、ネズミの精。お前さんが最後の戦いで切り落とした化け猫めの爪をうっかり落としておくから、いらん心配をする羽目になったぞ」
「まあまあ、文句を言わない、言わない。こうして最後まで見届けたんですから、もう精霊界に帰りましょうよ」
 スズメの精に促されて、コウモリの精、ネズミの精もうなづくと、その姿は蒸気のようにすっと空気に溶けて消えた。


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