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2004.04.03

『コマイヌの語るコンダラの小景』

 
「先輩、コンダラ使っていいですかぁ~?」
 拓己の声変わり前の高い声がコートに響いた。
 その瞬間、五月のテニスコートの上を冷たい静けさが走っていった。
 拓己は自分の声が二年の道緒に届かなかったのだと思って、もう一度繰り返す。コートに残っていた全員と、心なしか風も雲も太陽も、数瞬の間、静止しているように思われた。
「コンダラって何だ、コンダラって!」
 武広にはツッコミを入れるのはおそらく自分の役割であろうことをわかっていたが、「オレは拓己の保護者じゃないのに」と不満にも思っていた。でも太陽の光も凍りかねないこの状況……選択の余地はないと思った。
「え、だからコートをならすのに、重いコンダラ……」
「チョォォォォォップ!」
「いてえ」
 武広がスーパーマリオのジャンプポーズで脳天にチョップを食らわせる。これが武広の得意技だった。
「お・ま・え・なぁぁぁ。いまどき古いギャグで空気凍らすな! 星飛雄馬が引っ張っているのはローラーで、コンダラじゃねえ。ついでに巨人の星の歌詞は『思いこんだら試練の道を』だろ」
「えっ、『重いコンダラ塩の道を』? 塩野道緒先輩?」
 離れた場所でシューズを脱いでいた道緒がコケた。「わざとじゃない、あいつは天然ボケなんだ、怒っちゃいけないんだ」わかっていても、日々重なるばかりのストレスに、自分は十四で頭にハゲができるんじゃないかと思う。
「膝蹴りチョォォォップ!」
「いてえ。膝蹴りはチョップじゃないだろー」
「うっせ! お前、今日も国語の松本先生に『庭山くんのは弁慶ぎなた式ですね』なんて言われていただろ」
「えっ、なんだっけそれ」
「オレもよく知らねえ。『ぎなた』って何だろう」
「道緒先輩に聞いてみようか?」
「そうだな、おーい、道緒先輩ー」
 すでに道緒はさっさと部室に雲隠れしたあとだった。
 テニスコートの隣にある八幡神社の狛犬だけが二人を見ていた。『弁慶はな、ぎなたを持って……』口の中でぶつぶつつぶやいてみたが、もう別の話に夢中になっている二人には届かないのだった。


-了-

 
(『作家でごはん!』【三語即興文in鍛練場】投稿作品
 ルール:「狛犬・弁慶・塩の道」追加ルール「神視点」)

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