« 『無』(四枚) | Main | 胃が重い~ »

2004.04.16

『サチュロスのプジーオ』(六枚)

 サチュロスのプジーオをファミレスに連れて行くのは骨が折れた。
 なにしろ上半身は男、下半身は山羊という半獣の姿だから。遊園地の見せ物小屋から逃げ出してきたプジーオを私たちはかくまうことにしたのだ。
「おばあちゃんの車椅子、借りるね!」
「車椅子? 何に使うの」
 すぐ返すから、と言って質問をはぐらかし、車椅子を引き出す。玄関の段を降りるときガシャガシャと音を立てた。その音で、庭の木の陰でこっそり待機していた忠志や由美が気づいてやってきた。
「紀美香、うまくいったか?」
「プジーオ、すぐに座って!」
 由美がプジーオを車椅子に押し込めるように座らせて、膝掛けをかけるのと、お母さんが玄関先に顔を出すのとが同時だった。
「あ、あら……紀美香、こちらはどちら様?」
 もじゃもじゃパーマの鬼瓦、と私がこっそり呼んでいる形相が、怪盗ルパンもびっくりの早変わりでよそいきの顔に変わった。
「その先で転んだんです。それで紀美香が車椅子を貸してくれるって言うから……」
 うまい! 忠志は学級委員のくせに嘘の名人だと私は思った。お母さんも忠志や由美が一緒だったことで警戒を解いたらしい。「病院に行かれなくていいんですか?」なんてプジーオに聞いている。プジーオはまごまごしてお母さんの顔もまともに見られないようだった。お母さんは私を手招きして、「送ってあげるのはいいけれど、絶対におうちに上がったりしないですぐに帰ってきなさい。忠志くんと由美ちゃんもよ。わかった? 約束できる?」と私に言った。もう六年生なのに心配性だなあと思ったけれど、ここは素直にうなづいておくしかない。
「すぐ帰るから。携帯も持ってるし、心配しないで」
 プジーオの顔はどう見ても日本人に見えないからなあ。お母さんが警戒するのも無理はない。道路に出てからも私たちを見送るお母さんの視線を背中に感じて、私の心はちょっと重くなった。心の中でおかあさんに百回謝った。
 日曜日の午前中のファミレス作戦は、こんなふうに私を少し大人にして、ひとまず成功した。
 サチュロスが何を食べるのかわからなかったのでファミレスに連れてきたのだけれど、無駄な心配をしたみたい。まあ食べるわ食べるわ。なんでも食べる。パスタにハンバーグにカツ丼にピザにごま豆腐、和洋の区別なんて関係なし。ついでに由美がふざけて頼んだチュロスもぺろっと食べて「この揚げパンなんていうの?」なんて言うから私たちは「サチュロスがチュロスを食べるなんて共食いだあ!」と大笑いした。
 私たちの貯金の大半を費やして、やっと大食いサチュロスのプジーオは満足したみたいだった。デザートのソフトクリームを私たちは四人でぺろぺろなめた。
 プジーオに会ったのは昨日の夕方、三人で通っている塾の帰り道の空き地だった。会ったときから新月の晩はいつだろうって言っていたけれど、じつは今日の日曜日がその日なのだった。

 プジーオをかくまっていた空き地の資材倉庫は、翌日もぬけのからになっていた。
 私たち三人は寂しく思ったけれど、三人ともなんとなくそんな予感があったみたいで、それぞれプジーオの幸せを祈ることにした。
 プジーオがいなくなって一ヶ月近く経ってのこと。私は妙な黒服の男に会った。
 学校から帰る途中、近所では見かけない黒塗りの車が空き地の前に止まっていた。そこから真っ黒なスーツの男が降りてきたので私は警戒して遠巻きに通り過ぎようとしたのだけれど、
「三藤紀美香さん?」
 と名指しで呼び止められてしまったのだ。
 男は一通の手紙を渡すと車に乗り込んで去っていってしまった。
 手紙にはプジーオからのメッセージ。
『紀美香さん、忠志くん、由美さん、いつぞやはたいへんお世話になりました。あのときは何も言わずにいなくなってごめんなさい。私たち半獣は、非合法に作られた実験段階の生物です。じつは新月の晩ごとに薬を与えられないとだんだんもとの姿に戻ってしまうのです。けれども人間になるか獣になるかは、決まっていません。私たちを作った人が言っていたことには、人間になるには、人間らしい気持ちを持っていることが絶対に必要だということでした。みんなに会えて、とてもうれしかった。きっとぼくは人間らしい気持ちをみんなから教えてもらったと思います。もう会うことはないかもしれませんが、みんなのことは忘れません。ありがとう。お元気で。さようなら』
 すぐに忠志と由美に見せてやろうと小走りに走り出す私。
 そういえば、さっきの黒服の男の人、やけに黒くて小さい靴を履いていなかっただろうか。歩き方はまったく普通だったからすぐに気づかなかったけれど、あれはまるでひづめみたいじゃなかっただろうか……。


- 了 -


 ◇ ◇ ◇

三語即興に投稿しようとして書き始めたのですが……。
追加ルールで「ハードな感じで」とあったのを忘れていました(笑)。最初に考えたのはハードな感じだったのに、かけなかったので変えたのですよね。その際にぽろっと忘れてしまったようです。記憶力ゼロのおづね・れおであります。

(「ごま豆腐」「チュロス」「デザート」(注:デザートはどんな意味でも可)追加テーマは「ハードな感じ」で)


|

« 『無』(四枚) | Main | 胃が重い~ »

SS(三語即興文)」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/17870/449574

Listed below are links to weblogs that reference 『サチュロスのプジーオ』(六枚):

« 『無』(四枚) | Main | 胃が重い~ »