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2004.03.31

『パパのセスナと潜水艦と』(三枚)

「そのときだ、パパの操縦するセスナが洋上に不審な大型の潜水艦を発見したのは」
 声を一段低くして緊張を込めると、真剣に聞いていた娘の目がくりっと動き、私の視線とがっちり組み合った。
「結婚式のその日に、パパはえらいものを見つけてしまったと思ったね。一緒に空の散歩を楽しんでいた花嫁にも、ちょっと迷ったけれど、今見たものを教えた」
 お茶を入れ直してきてくれた家内が、あら、そのお話? と言ってほほえみ、娘の隣に座った。
「米国の潜水艦ではなかった。でもいくらなんでも我が国のそれも太平洋側の沿岸近くに他の国の艦艇が入り込んできているなんて、一大事だと思ったよ。もしかしたらそれがもとで戦争を引き起こしかねないんだからね」
 娘の膝の上に結んだ両拳に、ぐっと力がこもったようだった。
「パパは花嫁に言ったよ。どうする、って。そしたら我が花嫁はこう言った。『もっと近寄って、敵の様子を探りましょう』ってね。パパは勇敢な花嫁に惚れ直したね」
「うふふ、でもおかしいのよ、パパのセスナがくるっとカーブして敵の潜水艦に近寄ったときね」
「おいおい、先にオチをばらすなよ」
「あら、勇敢な花嫁の口から言わせてくれてもいいんじゃない?」
 私は苦笑いして肩をすくめた。しまった、娘の双眸は早くも家内のほうに釘付けだ。せっかくの私の誕生日だというのに、結局娘はママがいいってことなのかい。
「その潜水艦ったらね、うふふ、セスナに気づいたのね、急に水に潜り始めたの。潮をばあーって吹いてね。あはは、そうそう、そうなの、鯨だったのね。でもあんなに大きな鯨を見たのはテレビも含めてあれっきりよ……」
 何年かに一度しかない日曜日の誕生パーティーも終わり、私は膝を浮かしかけていた。さて、明日からはまた会社から帰ったら眠っている娘の顔を見るだけの日々だ。私はこの場を去る前にわざとらしい大きなため息のひとつもつこうかと思った。
「……そして、そのとき、こんな勇敢なパイロットのお嫁さんになれてほんとうにうれしい、って思ったのよ……」
 その言葉とともにふたたびこちらに向いた娘の視線を、私はどう受け止めていいかわからず、ただただとまどうばかりだった。

-了-


じちはちょっと失敗しました。追加ルールの「軍隊の話は出さない」に抵触しています。
プロットのときには意識していたのに、うっかり言及してしまいました。言わなくても通じる話なのですから、見直し不足が露呈してしまいましたね。反省です。
ああ、恥ずかしい。

(『作家でごはん!』【三語即興文in鍛練場】投稿作品
 ルール:「結婚」「潜水艦」「セスナ」 追加ルール:「軍隊の話は出さない」)

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